7章 ルネットの話術


ルネットは、ローディーヌの傍らに歩み寄った。
家来としては少し行きすぎたようであるが、ルネットとローディーヌはかなり仲がよかったのである。うん、こういう設定が何の伏線もなく唐突に語られるあたり、恋愛描写以外の部分は雑ですね。

「レディ、いつにもましてお綺麗ですこと!
貴女はその悲しみを癒すためにも、新しい領主さまを迎えるべきと思いますけど、いかがでしょう?」

「…何を言っているのかしら?」とローディーヌは言った。現実問題、夫が死んでから1日だって経っていないのであるから、人として当然の反応であろう。「私は、今すぐにでもあの人の後を追って死んでしまいたいの。変な事を言わないで。」

「それはよくありません。自殺は神も禁じるところですもの。レディも、新しい旦那さまを受け入れるべきではないでしょうか。」

「黙りなさい! そしてすぐにここを立ち去りなさい!」

「まぁ、でも聞いてくださいよ。」と、ルネットは落ち着いた様子で言った。「奥様が再婚なさらなかったら、誰が領地を守るというのですか? 来週にはアーサー王たちが泉にやって来るそうですし、是非とも誰か泉を守る騎士は必要ですよ。」

――ここで1つ疑問なのだけれど、何の根拠があってルネットはどうやって来週になればアーサー王がやって来るなどと言ったのだろう? いや、唐突に魔法の指輪を出したりとか、細かいことだけれども気になると言えば気になる。

さらにルネットは、
「さぁ、泣いていてはいけません。貴女のために泉を守る新しい騎士を探さなければなりません。しかも、これは大至急決める必要があります。
実際に、貴女には多くの郎党がいますが、彼らでは役者不足です。なぜなら、もともと彼らは馬に乗って槍を使う訓練はしていませんし、そもそもアーサー王の率いる騎士は常勝軍団ですから並の人間ではモノの役にはたちません。
ですが、私に考えがあります。聞いていただけますか?」

こう言われたローディーヌは黙り込んだ。なるほど、ルネットの進言は非常識なようでいて、現実を見据えた建設的なものだ。
それでも、とうてい夫を亡くしたばかりのレディが受け入れられるものではない。
レディはしばらくの間、黙り込んで考えた。

しばらく間を置いて、ルネットがこう言った。
「奥様、お悩みのようですね・・・。
ですが、身分のある貴婦人がそう長く悲しみ続けることはなりません。
貴女の夫が亡くなったとしても、貴女自身の価値はいささかも減じてはいないのです。
この世には、旦那さまよりも優れた男性など100はいるのですから。」

「分かったわ。さぁ、名前を言いなさい。
誰か、騎士に心当たりがあるのでしょう?」

「かしこまりました。ですがきっと私の話は気に障るものでしょう。
ですから、約束してください。私が何を言っても、決して私を罰しようとしたり、腹を立てないでください。」とルネット。

基本的に、ルネットの話術と言うのは、言質を取った上で相手を論破するというものだ。
洋の東西を問わず古典的な話術であるが、それだけに実効性が高いことは歴史が証明している。

「わかりました保証しましょう。」と、疑いを抱きつつもレディはルネットの条件を聞きいれた。

「では、お話します。ここに2人の騎士がいたとして、1人はもう1人を打ち負かしたとします。どちらがより優れた騎士でしょうか?」

「…なにか罠をしかけようというのですか? 何が言いたいのか、はっきりしなさい。」

「つまりですね、旦那さまを倒した騎士こそが、泉を守護するにふさわしい、と申し上げているのです。」

「馬鹿な!」とローディーヌは叫んだ。「呪われてしまえ、二度とそんなことを言うことは許さない!早く出て行きなさい!」

「おや、さきほど約束しましたのに。では、一旦は引き下がることにします。」

そう言い残すと、ルネットはローディーヌのもとを離れ、イヴァンを残してきた部屋に向った。
別に、交渉自体が失敗したわけではない。ルネットは引き際を心得ている。1晩、冷静になって考えれば、うまくいくだろう、と思ってのことだ。
案の定、部屋に残されたローディーヌは、最初は激怒していたものの冷静になるとこう考えた。

(…ちょっと言いすぎたかもしれない。これまでルネットの進言はどれも適切なものばかりだった。あの子は侍女であるけれど、私にとっては最も親しい友人のだから。あんなに酷く言うつもりはなかったのに…。
それに、現実問題として、これからあの泉を守る騎士は絶対に必要だわ。)

そう考えたローディヌは、またこうも考えた。
(なぜ、その男は夫を殺したのだろう?
悪意からだろうか、恨みからだろうか?
いいえ、きっと違うのだろう。騎士の試合と言うのはそういうものだから。
そうだとすれば、その男に罪はない。恨むのも筋違いと言えるわ…)

そう思うと、ローディーヌの心の内には、まだ見ぬイヴァンに対し、愛しい思いが湧きあがってくるのだった。

――さて、長くなったので今回はここまで。
今回に限っては、会話の流れをお伝えするためにほぼ全和訳なのであまり話は進みませんでした。
さて、1晩頭を冷やしたローディーヌはどうするか?
この続きは次回で。

2009/11/21

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