終章 永遠の愛


ルネットは馬に乗って城を出ると、イヴァンを探しに出発した。
彼女の予想では、イヴァンを探すのにはかなり時間がかかるだろう、と考えていたのだけれど、意外にもローディーヌの領地内、例の泉でイヴァンを発見した。
実際、鎧兜を身につけている騎士を遠目で誰と見分けるのはそれなりに難しいことだけれど、イヴァンについては間違えようがない。
イヴァン以外に、ライオンを連れた騎士なんていないからだ。

ルネットが馬を降りてイヴァンにあいさつをすると、イヴァンも喜びながら言った。

「やあ、君か! 会えて嬉しいよ。」

「はい、私の方も貴方を探しておりました。」

「なんだって?」

「レディが、再び貴方とよりを戻すための工作に成功しました。
そういったわけで、私は貴方を探すように命じられましたのよ。」

この言葉を聞いたイヴァンは、たちまち有頂天になった。
あれだけ自分を憎んでいたローディーヌが自分を許したばかりか、よりを戻そうとしているなんて!

「ありがとうルネット!
100回でも、1000回の感謝でも足りないくらいだ!
さぁ、すぐ行こう! 彼女のもとに!」

「…ですが、ちょっとややこしいことになっています。
これから説明しますから、貴方は適当に私の話にあわせてください。」

そう言ってから、ルネットは説明を始めた。
つまり、ルネットは『獅子を連れた騎士』を連れてくるように命令されたこと。そしてローディーヌは『獅子を連れた騎士』の正体を知らないこと、などである。
そんなことを話しながら、2人と1匹は街にたどり着いた。

レディは、思いがけずルネットがすぐに『獅子を連れた騎士』とともに帰ってきたので嬉しく思った。
イヴァンは、ローディヌーの元にたどり着くと、膝をついて挨拶をした。

「レディ、『獅子を連れた騎士』を連れてまいりました。
偶然にも、近くに来ていましたので。」

「まぁ、彼ならば泉を守るに充分な力をもっているでしょう。」

「そうですね。
…さて、彼を連れてきたのですから真実を語りましょう。
レディ、貴女はこの方より優れた殿方に出会ったこともないでしょうし、これからもないでしょう。
とりあえずこの方に対する悪意を持たないでいただけますか。」

「ええ、それはもちろん。」

「…この方は、貴女の他に恋人などはいません。
つまりですね、この方は貴女の配偶者、イヴァン卿です。」

「なんですって!」

ローディーヌはがくがくと震えながら言った。

「ルネット、また私を罠にかけたわね!
愛してもいない男を愛するように仕向けるなんて!」

――まぁ、実際問題とルネットのやり口はだまし討ちだ。
理屈としては、ローディーヌは『獅子を連れた騎士』の、つまりイヴァンを許さなければならない。だけど、感情がそれを許さないのは人として当然だ。
イヴァンはローディーヌの言葉を聞いて、なんとか仲直りをしようと、誠意を込めてこう言った。

「レディ、どうか罪人にも哀れみをかけていただけませんか?
私は、あの気違いじみた行為に対し償いをしようとつとめてきました。
まさしく、過去の私は気が狂っていたとしか思えません。
今後、二度と貴女の怒りを買うことはいたしません。」

「そうね…。」

ローディーヌは考え込んだ。
奇策・策略というのは高等技術で誰にだってできることではない。
だが、これでは人の心までは得られない。かえって反感をかうこともある。
正攻法というのは、迂遠で不器用でな方法だ。いつだって成功するものではない。
だけれども、人心をえるには正攻法しかありえない。
人を動かすのは理屈ではないのだ。
…ただ、策略は人を動かしやすくすることはできる。

ルネットの話術によって、和解しやすい状況はできていた。
そして、そこにイヴァンによる誠意ある謝罪が合わさった。

「私は貴方と仲直りすると誓いを立てたのでものね。
誓いを破ると、偽証罪が成立してしまいますからね。
分かりました、仲直りしましょう。」

「レディ、神や精霊ですら貴女の一言よりも価値のある祝福をすることはできません!」

このようにして、イヴァンとローディーヌは和解した。

いくたの困難があった。
発狂し、荒野をさまよったこともあった。
恋人への報われぬ思いに、身を斬られるような苦しみを味わった。
名前を捨て、獅子と2人だけで旅をした。
1人で多くの敵と戦い、重傷を負ったこともあった。
あろうことか、最愛の友・ガウェインに剣を向けたこともあった。

それでも、最後にはすべて良くなった!
もはや、イヴァンの心は平穏で、全ての悩みも消滅した。
苦しみを全て、妻と過ごす喜びに変えて。

ルネットも、彼女なりに幸せを手に入れた。
レディと、そしてイヴァンの関係が修復されたからだ。

――以上で、クレティアンは『獅子を連れた騎士』の物語を終えることにする。
もう、これ以上彼らについて語ることは何も無い。

――end――

2009/12/29

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