28章 決闘裁判


なんやかんやと寄り道ばかりしていたため、妹姫の決闘裁判まで期限がない。
そんなわけで、イヴァンと旅の乙女は、日に夜を継ぎ、大急ぎで妹姫が待つ旅の乙女の家に向かった。

病に倒れ、絶望していた妹姫であったが、旅の乙女が『獅子を連れた騎士』を連れて帰ってきたのを見て大喜びした。
そして、その晩はこれまでの報告などをして過ごした。
長い長い冒険があったため、1晩で語り尽くせないほどである。

翌朝、妹姫たちは決闘裁判のため、アーサー王の宮廷に向かった。
宮廷では、姉姫が今日という1日が過ぎ去るのを心待ちにして過ごしていた。
この1日さえ終わってしまえば、遺産は全て彼女のものになるからだ。
さて、妹姫が来る可能性が低いと入っても、期限は守らなければならない。
競技場には観客たちが集まり、ガウェインも完全武装して対戦相手を待つ。

「さぁ、陛下。」と、姉姫はアーサー王に語りかけた。
「約束の期限は、今日の正午まで。そして、もうすぐで正午ですわ。
妹姫をこれ以上待つ必要はないでしょう。
宣言してください。私の主張の方が正しかったと。」

アーサー王は、彼女の主張の方が不当であると考えながらもこう言った。

「いや、約束の期限までは絶対に君の勝利を宣言することはできない。」

と、王が喋り終えようとするや否や、アーサー王の目は妹姫と、代理人である騎士がやってくるのを確認すると、にっこりと笑を浮かべた。
というのも、アーサー王自身、妹姫の言い分の方が正しいと考えていたからである。ていうか、地の文にないため、後から説明するけれど、アーサー王は妹姫の主張の方が正しいと知っていた。
――いや、それなら最初から決闘裁判なんかさせるなよ。
騎士の強さと、主張が法的に正しいかの間にはなんの関係もないだろう、と思うのは訳者だけであろうか?

さて、このときイヴァンはライオンを競技場に連れてこなかった。
そんなわけだから、観客たちは入場した騎士を見ても、この騎士が『獅子を連れた騎士』であるとは思わなかった。
いい加減、イヴァンの方で、ライオンを連れて試合に来ると、最後はライオンの乱入によって解決することにようやく気づいたのかもしれない。

「神は、王とその国を救い給う。
もし私の権利が正当ならば、私の選んだ騎士に勝利を与え給え。
この騎士は、哀れみと慈悲の心から私の代理人となりました。
ですが、愛するお姉さま。
私にも法定相続分の遺産を配分することで、争いをやめようではありませんか?
それ以上は決して求めませんから。」

と、妹姫は姉に対して和解を提案した。
だが、姉姫はこれを受け入れない。
妹が誰を連れてきたとしても、ガウェインに勝てる騎士はこの世にいないのだから、当然のことである。

「いいえ、それはできません。
貴女が受け取る遺産はまったくないのですから。」

「…それならば、残念ですが決闘裁判で主張の当否を判断しなければなりません。
ですが安心してください。私が買ったとしても、お姉さまの配分をゼロにするなんてことはしませんから。」

姉妹での話し合いをしている間、2人の騎士は槍試合の準備を終えて競技場に出た。
だが、2人は互いに相手が誰であるかを知らない。

ガウェイン卿はイヴァンのことを友人として愛し、そして尊敬していた。
もちろん、イヴァンだってガウェインを愛し、敬意をいだいている。
――いや、訳者がBL好きだとかそういうんじゃなくて、原文に「Gawain loves Yvain and regards him as companion」って書いてあるから、忠実に訳しているだけですよ。

しかし、いまの彼らにとって、目の前の騎士は憎むべき敵であり、倒すべき相手だ。
つまり、そうと知らずにガウェインはイヴァンを憎み、イヴァンもまたガウェインを憎んでいた。
イヴァンがガウェインの、ガウェインがイヴァンの死を望むなんてことがあろうとは、想像すらできない事件が起こっていた。
――ちなみに、このガウェインとイヴァンが戦う前にクレティアン・ド・トロワが運命を嘆く部分はすごい長い。具体的に言えば、wordで2枚近くある。
かなり情緒的で、2人の熱き友情を筆致しているけれど先の部分のネタバレも含む上、言葉を重ねるよりも、これからの2人の行動を見れば充分に伝わるだろうと思う。

2009/12/27

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