24章 妹姫の冒険


さてと、今回から場面が思い切り変わります。
ノワール・エスパインという名の領主がいた。個人名の中々でないこの作品としては珍しいことに、この領主はしっかりと名前が出てる。
が、この領主は特に台詞もキャラ付けもなく死んでしまいました。
問題は、彼の遺産をどう相続するのか、である。

彼の相続人として、2人の娘たちがいた。
ここで、その娘たちの名前がなぜか分からないので、適宜「姉姫」と「妹姫」という事で話を進めよう。ちなみに、原文は「she」とか「the another」とかで話を展開するので、すごくややこしいです。

その姉姫は結構悪い女で、父の遺産を全て独り占めし、妹姫には何も相続させないと宣言した。
そこで、妹姫の方は、正当な相続分を受け取るため、アーサー王の宮廷に直訴をすることとなった。
しかし、姉姫に抜かりはない。彼女は妹よりも早くアーサー王の宮廷に向かうと、ガウェインに自分の弁護を依頼した。
この日は、ちょうど王妃誘拐事件が解決してから3日目という日であり、ガウェインは宮廷にいたのだ。
で、ガウェインも事情をよく知らなかったのかもしれないけれど、とにもかくにも乙女の依頼だから受けてしまった。
――この辺、中世のおおらかさで、争いが起きれば、戦って勝った方の主張を正しいと認めるみのだ。
いわゆる決闘裁判というもので、強い騎士というのは有能な弁護人となるのだ。

まさに、ガウェインが姉姫の依頼を受け入れたのにやや遅れ、妹姫がアーサー王の宮廷にたどり着いた。
しかし、妹姫はガウェインが姉姫の弁護側にたったことを聞いて絶望する。
それでも、妹姫は必死でガウェインに陳情する。

「申し訳ないが乙女よ。」とガウェインは言った。「私は貴女の依頼を受けるわけにはいかないのだ。」

このように正面切って断られたら、ほとんど妹姫の敗訴はほぼ確定だ。
決闘裁判が行われれば、当事者の姉姫も妹姫も女性。戦闘能力がないため、代理人が代わりに戦うことになる。
そして、最強の騎士であるガウェインが姉姫の代理人になるのだから、妹姫が他の騎士を代理人にしても勝てるわけがない。
唯一ガウェインに対抗出来そうなランスロットは、これまた王妃誘拐事件のごたごたの事後処理で宮廷を留守にしていた。
仕方が無いので、妹姫はアーサー王に対しても訴えた。

「陛下。是非とも、私にお慈悲を。
私の正当な権利が侵害されようとしています。
せめて、助言をいただけませんか?」

「ふむ、そういう事情なのか。
ならば、今ここに姉姫もいるのだから、平和的に和解で解決はできないものかな?
たとえば、遺産を半分づつにすればいいだろう。」

と、アーサー王は21世紀に生きる我々の価値観としては極めて常識的な提案をした。
しかし、世界最高の騎士に弁護を依頼した姉姫は譲らない。

「いいえ陛下。私が相続したのですから、妹には領地や財産など一切を受け取る資格はありません。
どうしてもというのなら、決闘裁判で解決しようではありませんか。
さぁ、妹の代理人として戦う騎士がいたら、今すぐに名乗り出てください!」

「君の主張は、公平ではないね。
いくらなんでも、今すぐに代理人を呼び寄せるのは不可能だ。」

と、アーサー王は言った。
いや、不公平なポイントは時間制限というか、むしろガウェインを弁護士にしてるところではないかと思うのだけれども、さらにアーサー王はこう続けた。

「妹姫が望むのならば、騎士を探すために40日の猶予を与えよう。
それが宮廷のしきたりだからね。」

姉姫にとって、アーサー王の提案に反対はない。
そこで、仕方なく妹姫の方もアーサー王の提案を受け入れることにした。
とりあえず、妹姫としては先延ばしができただけでもよしとせねばならない。

…ただ、妹姫には1つだけ希望があった。
最近、名の売れ始めた『獅子を連れた騎士』の存在で有る。
どこの誰だか知らないけれど、誰もがみんな知っているという、噂の騎士で有る。
なんでも、巨人と戦ってガウェイン卿の甥と姪を救出した、とかいうのである‥。
こうして、妹姫の『獅子を連れた騎士』を探す旅が始まった。

2009/12/21

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