22章 火刑台のルネット


ようやく巨人を退治したイヴァンは、懸命に馬を走らせる。
うまく、道なりに走らせることで最短距離を狙って、馬は疾駆する。

ちょどそのころ、薪にはもう火がつけられており、炎が燃え盛っていた。
ルネットはシャツ1枚だけ着せられた状態で縛られた状態で火の前に座っている。

(…イヴァン卿に事故でも起きたのかしら?
それとも…二度も約束をすっぽかすなんて、私の目もあてにならないわ)

あわやルネットの命もこれまで…、と思われたとき、ついにイヴァンが到着した。

(ま、間に合ったぞ!いや、もう火がつけられている…。
人はこれほどまでにひどいことをできるのか!)

イヴァンは激怒した。
そして、群衆の方に突進すると叫んだ。

「その乙女を開放しろ! 無実の人を焼くな!」

突如としてやってきた騎士に驚いた群衆は、跳ね飛ばされたくはないから騎士のために道を開けた。
イヴァンの胸は、かわいそうなルネットを見るとに対する哀れみでいっぱいになった。
そして、次には彼女をこのような目に合わせた敵への怒りが沸き上がってくるのを感じた。

「乙女よ、君を告発したのは誰だ?
私は君を弁護する。戦って、君の無実を証明しよう!」

ルネットは、イヴァンを見もせずに答えた。
「あぁ、貴方が間に合うということは、神は私を見捨てなかったのですね!
不実にも私を告発した男は目の前にいます。」

「ふん!」と、告発者が言った。

――例によって、ルネットを告発した男は名前が出来てないので、基本的に「告発者」と記すけれど、彼は言った。

「嘘つきの性悪女め。こんな女のために弁護を引き受けるような気違いがいるとはな。
俺は、2人の弟たちと一緒に3人で戦う。だが、お前は1人だ。
悪いことは言わないから、さっさと帰るんだな。」

「無礼なことをいうものではない。3人相手でも、決して逃げたりできるものか。
この乙女は、かつて私の魂を救済してくれた方だ。そんな乙女が反逆罪を犯すなどということはありえない。
ゆえに、彼女への告発は不当なものだ。それを、戦うことで証明しよう。」

このようにイヴァンが宣言することで、決闘裁判が行われることになった。
その際のルールだけれども、これはかなりイヴァンに不利なものだ。
まず、イヴァンは告発者とその2人弟、つまり3人に対して1人で戦わなければならない。
また、告発者たちは、イヴァンの連れているライオンに難色を示した。
告発者たちは、ライオンを試合遠ざけるように主張した。というのも、ライオンの視界の中でイヴァンが危機に陥れば、ライオンが試合に乱入してくる可能性があるからである。
そうは言っても、イヴァンだってライオンに命令出来る立場でもないし、ライオンの自由意志というものがある。
結局のところ、イヴァンはライオンに命令して試合に参加させない。ただし、ライオンが乱入してきた場合、そのときは自分の身は自分で守る、ということで落ち着いた。

「頼むよ、君。」とイヴァンはライオンに話しかけた。
「私はこれから試合なのだ。
手出しは無用だから、君は後ろに控えていて欲しい。」

そう言われると、ライオンは素直に後ろに下がると、寝そべってみせた。
我々としたら今更…、という気もするが、この獅子の、明らかに人語を解する様子はそれなりに驚くべきことだ。

イヴァンと告発者たちは、槍試合をするために馬を加速させるための距離をとった。
そして告発者たちは、一斉に馬に拍車を入れると、イヴァンに向けて突進してきた。
イヴァンとしては、なんとしてでも1合目で怪我をするわけにはいかない。うまく立ち回り、相手の槍を盾にぶち当てて、敵たちの槍を砕く一方、自分の槍をうまく折らずにすれ違う。

さらに、イヴァンは相手に休む暇を与えず、すばやく馬を振り返らせて第2の激突に備えた。
そして、2合目。イヴァンの槍は相手騎士の体に命中し、一撃で落馬させた。
この一撃を受けた騎士は重傷を負い、戦闘不能となった。
だが、イヴァンの膂力に耐えきれず、槍の方も折れてしまったのは失敗だったといわなければならない。

だが、これでお互いの槍は折れ、剣だけの戦いとなった。
敵方の2人は剣を抜くと、イヴァンに向かってきた。
1人ずつであればともかく、2対1ではイヴァンの劣勢は免れない。
たちまちにイヴァンは防戦一法となり、ついに敵の一撃を体に受けてしまった。

(イヴァンが危ない!)

そう感じるや否や、ライオンは弾かれたように飛び出すと、告発者に襲いかかった!
たちまち、告発者の着ていた鎖帷子と肩の肉が引きちぎられ、告発者は地に倒れた。

「ちょ…、君! やめるんだ!」

イヴァンは必死になって獅子を止めようとした。
所詮、獣は獣ということか。ライオンは言葉を理解できるわけではない。
ライオンとすれば、イヴァンを困らせるつもりは全くないし、むしろイヴァンのためになると思っての行動である。
やがて、重傷をおったものの、告発者とその弟の2人はライオンに反撃し始めた。
さすがに、ライオンの攻撃力は高いものの、鎧は着ていないのだから徐々にダメージを負いはじめた。
しかし、傷つきながらもライオンの猛攻に耐えきれず、告発者たちは降伏を宣言した。

こうして、一応、決闘は終わった。
イヴァンを含め、全員が傷だらけである。

(痛た…。さすがに3対1は厳しかった。
だが、それよりも獅子の傷は大丈夫だろうか?)

と、イヴァンは自分の怪我よりむしろライオンの負傷具合を心配した。

さて、ライオンの力を借りたとはいえ、勝負はついた。
イヴァンはルネットを開放させる。
また、ローディーヌも、ルネットに対する悪意を捨て去ると、喜びつつもルネットに駆け寄った。
――この辺、あまりにもローディーヌは自分勝手ではないかとか、そもそもお前が悪いんじゃないか、と思えるが気にしてはいけない。
とりあえず、決闘裁判の結果、ルネットは無罪と神が決めたのだ。いまさら、過去のことを持ち出すわけではないようだ。

一方、告発者たち兄弟は火刑に処された。
地の文によれば、虚偽の告発をしたものは、同じ方法で処刑されるのだとか…。
えっと、さらっと描写されているけれど、個人的にこの辺の詳細が気になる。

と、キリがいいので続きは次回で。


2009/12/17

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