21章 イヴァン対巨人


そして翌日、イヴァンは約束通り正午まで待つことにした。
しかし、何事もないまま時間だけが過ぎていく。
イヴァンとしても領主のため、巨人と戦いたい気持ちはあるが、ルネットを救いにも行かなければならない。
苦しみながらも、イヴァンはこう告げた。

「領主どの、残念ながらもうすぐ時間です。
私は、もうここにとどまることはできません…。」

このように告げられると、乙女ら奥方はせっかくの希望が消えたため、恐慌に陥った。
そこで、領主たちはなんとしてでもイヴァンをこの場に留めようと考えた。

「騎士さま、待ってください。
もし行かないでくだされば、我が領地とすべての財産を差し上げますから…。」

「いいえ、私は貴方から何も受け取るつもりはありません。」

と、イヴァンは答えた。
だが、肝心なところでイヴァンは非常には徹しきれない。
財産には興味のなかったイヴァンであるが、乙女の涙は別である。

(どうしたものか?
ルネットを助けるためには、早くここを出発しなくてはいけない。
だが、この乙女を見殺しにすることもしたくはない。
ぐずぐずしていれば、ルネットは殺されてしまう…。)

このようにして思い悩んだ末、イヴァンはもう少しだけ、この場にとどまることに決めた。
しかし、「幸運にも」と言っていいのだろうか、イヴァンが決心したのとほとんど間をおかず馬に乗った巨人が部下を連れてやってきた。

――ところで、私の見たところ騎士道物語に出てくる巨人というのは怪物的な生物というより、異教徒かなんかで結局人間のような気もする。
それに、普通に馬にのっていたし、少なくとも馬より小さいのだろう。本編には直接関係ないことだけれども。

その巨人は首から鋭く先端の尖った串をぶら下げており、ほとんど半裸である。
さらに、部下としてドワーフなんぞも従えており、領主の息子と思しき4人の男を拘束していた。
巨人たちは、城門の前で馬を止めると、このように叫んだ。

「領主よ、降伏のしるしにお前の娘をおれに差し出せ!
さもなくば貴様の息子たちを殺す!」

この言葉を聞いた領主の娘は恐怖に震えた。
もし、巨人のモノとされてしまえば、筆舌に尽くし難い苦しみが待っているのは確実であり、死んだ方がよほどマシである。

「ご安心を。」とイヴァンは言った。
「神は、決して娘さんが巨人のモノになることをお許しになりません。
さぁ、私に馬と鎧を貸してください。
それから、城門を開けて吊り橋をおろしてください。
私が、あの巨人を退治してみせましょう。」

これを聞いた家臣たちは大急ぎで馬と鎧を準備すると、イヴァンにこれらを身につけさせた。
そうして、イヴァンの準備が終わると、吊り橋が下げられ、イヴァンは巨人に向けて馬を進めた。
もちろん、ライオンもイヴァンと一緒に城をでた。
ついでに、領主の家臣たちも誰1人として戦おうとせず、イヴァンのためにお祈りをするだけだったというが、これは物語の展開上そんなものか。

「ふん、お前が領主の代役か?」と巨人は言った。
「それにしても、領主は冷酷なものだ。お前はおれと戦って殺されるのだからな。」

この挑発に対し、恐れることなくイヴァンは言った。
「脅しは無用。私には、無駄な会話をする時間はないんだ。
さぁ、決着をつけようか!」

このように答えると、イヴァンは巨人の胸めがけて槍を繰り出す。
また、巨人の方も鋭い杭でもって反撃してきた。
しかし、結局のところイヴァンの槍は皮の鎧で守られた巨人の胸を貫き、大量の血が流れた。
なんといっても、巨人は自分の強さに自惚れていたところがあったため、ろくに武装をしていなかったのである。
さらに、倒れた巨人に対し、とどめとばかりにイヴァンは剣を抜くと、激しい一撃を加えた。
…しかし、イヴァンの剣は巨人の首を外れ、頬の肉を少し削ぎ落したにとどまった。
一方で、重傷を追いながらも巨人は杭でイヴァンの馬を攻撃してきた。

さて、主人の危機を感じたらイオンは、イヴァンに加勢しようと飛び出した。
ライオンの攻撃は巨人の着ていた皮の鎧を切り裂いて、肉をも引き裂いた。
巨人の方も、ライオンに反撃しようとするものの、攻撃を終えたライオンは距離を取り、巨人の射程距離から離れてしまう。

この隙に、イヴァンの剣は巨人に対して2どの斬撃を与えた。
1度目は肩に、そして2度目の攻撃は胸から肝臓を破壊した。さしもの巨人も肝臓を壊されては生きていられるわけでなく、たちまちに絶命した。

この光景を見ていた城の中の者たちは大喜びである。巨人を倒したイヴァンを祝福しようと、走ってくる。
拘束されていた領主の息子たちも開放された。
彼らは、イヴァンに対してこの地にとどまり、危険な旅を続けないように嘆願した。
だが、イヴァンはその申し出を断った。
イヴァンの意志が固いと見た領主は、このように言った。

「貴方のような勇敢な行いは、誰にも知らしめなければなりません。
また、『私の甥と姪を助けたのは誰だ。』とガウェイン卿に訪ねられたとき、なんと答えればいいのですか?
貴方はガウェイン卿と親しい様子ですが、せめて、貴方のお名前をお聞かせください。」

このように頼まれたイヴァンであったが、なぜかここでもイヴァンは本名を明かさなかった。

「ガウェイン卿は私のことがわからないかもしれないが、確かに私は彼をよく知っている。
…私の名前は『獅子を連れた騎士』。
さぁ、私は先を急ぐ身ですから、すぐに出発しなければなりません。では、さらばです。」

と言い残すと、事後処理を領主たちに任せ、イヴァンは大急ぎで馬を進めた。
この瞬間が、イヴァンが自ら『獅子を連れた騎士』と名乗った最初の場面だ。
のち、この『獅子を連れた騎士』という名前は大いに広まるのであるが、それはもう少し未来のことだ。

(急がなくては…。
だいぶ時間を使ってしまった。)

そう考えながら、イヴァンは必死で馬を進めた。
さて、イヴァンはルネット救出に間に合うのか?
この続きは次回で。

2009/12/9
 


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