2章 カログレナントの冒険

 

ここから、カログレナントの長い独白が始まります。
どのくらい長いかと言えば、ざっとwordで5枚ほど。
『イヴァン、または獅子の騎士』という作品自体がwordで80枚ってことを考えればかなり長いです。仕方もないでさくさく行きましょう。

「――あれは7年前のことでした。
私は冒険を求め、ブロセリアンドの森へ行ったときのことです――。」

と、さくさく勧めるはずだったのですがちょっと注釈。
ブロセリアンドってのは実は北フランスなのですね。
じゃぁ、カログレナンは海を渡ったのか、といえばそうでもないようで、たんに作者が地理にうとかったためにこうなっているらしい。
ま、『狂えるオルランド』とか読んでいれば分かるのですが、ことほどさように時代考証とか地理上の考証と言うのはいい加減なものです。
ちなみに、本筋に関係ないから1章で省略しましたが、この作品ではアーサー王の宮廷はウェールズにあるとかいう設定になってます。

で、話を戻してカログレナンの冒険です。
ついでに、もともとの文章は1人章で書かれているのですが、突っ込みを入れたりしやすい都合で3人章に改変してお届けします。

さて、ブロセリアンドの森の中、カログレナントは1人でひたすら馬を進めます。
やがて、森を出たところに木でできた塔を見つけました。
そこの城主が結構いい人で、結局はその城で泊めて貰うことになりました。
しかも、そこの娘さんは綺麗だし、会話も上手いしで、カログレナントはいい気分になりました。
一緒に庭など散歩するのですが、ずっと2人きりで庭で過ごせたらいいなぁ、とか考えてしまう。
でも、夕食の時間になったので家来が私を呼びに来てしまったので、がっかりしながら夕食に向うカログレナント…。
で、この話が重要かと言えば決してそう言うわけではなくて、たんなる前置きです。


そして、その翌朝、カログレナントは早起きして出発しました。
で、カログレナントが馬を進めると空き地に着きました。
その空き地では、巨大な雄牛が何頭もいて互いに戦っていました。
その恐ろしげな光景に、思わずカログレナントは引き返して…、えっ、ひきかえしちゃうの?
「いや、野生の雄牛ほど危険な獣というのはそうはいませんぞ。」
と言うカログレナントですが、なんかこうへたれですね。
のち『獅子の騎士』とまで呼ばれ称されるイヴァンと比べるとどうもスケールが小さいなぁ、など私は思ってしまうわけでした。

そうして引き返したカログレナントは切り株に座って一休みしていますと、真っ黒に日焼けした田舎者がやってきました。
この男ときたら、なんとも醜く、想像を絶するほど巨大な体をしていて身長は17フィートほど、手には棍棒をもっておりました。具体的に描写して見れば、「顔は馬の顔ほど大きくて、耳は象かと思うほど、顎は狼のように耳まで裂け、歯は猪のように黄色」とのこと。
そんな巨人がカログレナントの方に近づいてくるのですから、急いで立ち上がりました。
そして、カログレナントは勇気を振り絞って尋ねました。

「やい、お前は化物か? さもなくば悪いものか、善なるものか?」
「おれは人間だ。見たら分かるだろう。」

――見て分かるのか…、と私は思ってしまうのですが、さらにカログレナントと巨人の話は続きます。
なんでもこの巨人はこの森で牛の世話をしているとのことでした。
さっき見たような雄牛を飼えるはずがない、と思ったカログレナントですが、この巨人ときたら怪力の持ち主で、獣の角を掴んでひねり倒したり、殴り殺したりできるとのとこです。

で、今度は逆に巨人の方が尋ねてきました。
「あんたは何者で、なにをしにここへ来たんだい?」
で、は答えたのです。
「見ての通り、私は騎士だ。我が武勇を試すため冒険を探してここへ来た。そうだ、私にふさわしい冒険があったら教えてくれないか?」

この質問に対し、巨人はしばらく考え込んでましたがこう答えました。
「うん、ならば湖に行ってみたらどうかな。ただし、無事に帰ってくることはできないがね…。
ここから少し行ったところに、狭い小道がある。それを道なりに行くと、不思議な湖があるんだ。
その水は、沸騰するように泡立っているのに、水は大理石よりも冷たい(水の冷たさのたとえに大理石って心理が良く分からんが、原文ママ)。
しかも、その湖の側に生えている木の葉は冬でも一年中緑色。そんな木には鎖で繋がれた鐘が掛かっている。そして、向こう側には小さいけれど綺麗な教会等も立っている。
そこで、湖の水をそばにエメラルドの岩に掛けてみるがいい。すると、大嵐がやってきて回りの獣たちは姿を消すだろう。
まぁ、この稲妻と烈風に耐える事ができる騎士なんてそうはいないだろうけどね。」

そう言って巨人が去って行きました。
なんだ、この巨人と対戦するのではないのか…、という感じですが、ようし挑戦して見るかな、とカログレナントは言われた通りに道を進んで行きます。
巨人と会った時刻は9時ころだったそうだけど、だいたい正午前には湖に到着しました。
まさに、巨人が言った通りの景色で、これがまさに大自然の神秘。言葉にできないくらい美しい。
で、これまた言われた通りにカログレナントは湖の水をすくってエメラルドの大岩に掛けてみたところ、果たして大嵐がやってきた。これがまた、言葉にできないくらいに酷い嵐。
天が割れたかと思うほどの衝撃で雷が鳴り、雹と雨が凄まじいほどの勢いで降って、いやぶつかってくる。

嵐が来るまではわくわくしてたカログレナントであったが、嵐が来たらもうがくがくぶるぶる。
「いやもう、死ぬかと思いましたよ。
ええ、本当に私が浅はかでした。いまでは後悔してます。」
と述懐しているあたり、もうカログレナントは完璧にへたれですね。

まぁ、それでも嵐だって永遠には続きません。
やがて嵐が過ぎ去ると、カログレナントはもう達成感と喜びでいっぱい。
小鳥のさえずりさえ無上の音楽に聞こえてくると言ったものです。

が、カログレナントの喜びの方も長くは続きませんでした。
ある騎士が、馬に乗ってやってきたのです。
その騎士と来たら、鷲のように敏捷で、獅子より威厳がある。
そうして、カログレナントの前までやってきてこう詰問した。

「なぜ卿は我らに危害を及ぼすのだ?
見ろ、お前が引き起こした嵐と雷のせいで木々は倒れ、あたりは酷い有様だ。
我はこのあたりを守護する騎士。
いま、この瞬間から卿と我の間に平和も停戦もない。
挑戦すると言うのなら、我が相手になろう。」

…いい奴じゃないか、この騎士。
巨人に教えられて事情を知らないことを差し引いてもここは謝罪が大人の対応だと思うのですが、カログレナントは挑戦に応じて戦うことにしました。
で、この騎士の馬も槍も、カログレナントのそれよりも上等なものだったし、また騎士の体格もカログレナントよりずっと良かったと言う。
さっきも書きましたが、この部分はもともとカログレナントの独白部分。
本人は、「いえ、別に私の恥を覆い隠すために言うのではありません。」との言葉ですが、やっぱへたれ…。

ま、既に言い訳を始めている時点でおわかりでしょうが、カログレナントはあっさりと負けました。
ですが、騎士はカログレナントの命まで取ろうとはせずに来た道を引き返して行きました。
結局、カログレナントは痛む体を引きずって、泊めてくれた城主の家に帰りつきましたとさ――。

以上がカログレナントの冒険の概略です。
本人も、「もうこの話は2度としたくない。」と言ってますが、確かにこんな話、自分からするものではありませんね。

さて、この話を聞いたイヴァンはどうするか?
その話は次回で。
 

2009/10/24

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