14章 モーガンの秘薬


さて、イヴァンが森で昼寝をしていると、馬に乗った3人の女性がやってきた。
1人はノロイゾン夫人で、残り2人は夫人の侍女である。
――ちなみに、侍女はそれなりに活躍するものの、例によって名前は出てこないので悪しからず。

彼女らは、裸で寝ているイヴァンに興味を持った。汚い格好をしているが、どこか見た事のあるような顔をしているのだ。
そこで、侍女うち一方は馬を降りると彼の体を色々と調べ始めた。
しばし逡巡したものの、やがて乙女は浮浪者の顔にある傷跡に気が付いた。

(この傷跡、イヴァン卿の顔の傷と同じ場所にあるわね…。
うん、間違いないわ。この浮浪者はイヴァン卿だわ!
でも、どうして裸でいるのかしら…?)

そう思いつつも、怖いのでイヴァンを起さず、ノロイゾン夫人のところに戻って報告する。

「レディ、この方は世界で最も優れた騎士、イヴァン卿です。
ここに傷がありますから、間違いはありません。」

「えっ、イヴァン卿ですって?」と夫人は驚いた。「どうして、彼がこんなことになったのでしょう?」

「それは私にも分かりかねます。ですが、きっとひどい不幸があったのでしょう…。」

と、侍女は言った。
しばし黙り込んだ夫人であったが、どこの世界でも侍女の方が機転が利くらしい。侍女は、こう提案した。

「レディ、イヴァン卿が正気に戻れるように協力いたしましょう!
もし正気を取り戻せば、レディのために尽力してくれるはずです。
きっと、アリエル伯爵の問題も解決できるのではないでしょうか?」

「…うん、いい考えね。」

と夫人は答えた。
いま、ノロイゾン夫人の統治する街は、ときたまアリエル伯爵の襲撃を受けており、防衛のための戦力を欲しがっていたのである。

「よし、決めたわ。ちょうどいいことに、この前賢者モーガンが私にある塗り薬をくれたのです。
なんでも、精神に支障を来たした者の頭にこの塗り薬を塗れば、たちどころに正気を取り戻すとか…。
さぁ、薬を取りに街に戻りましょう。神のご加護があればあれば、イヴァン卿は眠ったまま動かないで小から。」

――いや、本当にこの台詞は突っ込みどころが多くて、何から突っ込んでいいのやら。
まず、たまたま通りかかった夫人がそんな秘薬をもっていると言うご都合主義な展開に驚き、しかも塗り薬で精神異常が治るって…。
ただ、深読みすれば、事情を察したモーガンがイヴァンのために手回しをした、と考えられないだろうか。原文には全くそう言うことは書いてないけれど、訳者はそう思った。
一説によれば、モーガン・ル・フェイはイヴァンの母親なのだから。ちなみに、これ以降はモーガンはまったく登場しません。本当に、もったいないなぁ…。

さて、大急ぎで街に戻った夫人は小箱を侍女に持たせた。大事な秘薬なので、あまり使い過ぎたくないので、必要な分だけ使うように命令する事も忘れない。
さらに、イヴァンに着せるための服と、余分の馬を用意すると、侍女をイヴァンのところまで戻らせた。

こうして、イヴァンの元にやって来た侍女は、イヴァンのこめかみに薬を塗りつけた。さらに、何を思ったか額を始め、全身に薬を塗りたくる。
ただ、結論から言うとこれは無駄なことだ。こめかみにだけ塗れば、それで十分だったのだから。
薬を塗りつけると、夫人たちはイヴァン卿から距離を取って自分の馬の方に向かった。さすがに、眠っているとは言え狂人の近くにいるのは危険である。
それから、夫人たちは神に祈った。イヴァンが正気を取り戻しますように、と。

さて、それからかなり時間が経ち、十分な睡眠を取ったイヴァンはようやく目を覚ました。
秘薬の効果はたいしたもので、目が覚めたとき、イヴァンは正気を取り戻すとともに赤面した。なにせ、真っ裸なのだから。
だが、あたりを見れば、これまた何故か男物の服が置いてある。

さて、正気を取り戻したイヴァンに立ちふさがる試練とは?
この続きは次回で。
 


2009/11/28

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