解説らしいもの

== 概要 ==
『イヴァン、または獅子の騎士』は12世紀後半に活躍した作家・クレティアン・ド・トロワの代表作の1つです。
クレティアンはこの他、『ランスロット、または荷馬車の騎士』、『パーシヴァル、または聖杯の騎士』、『エレックとエニード』、『クリジェ』などの騎士物語を書いています。
どの物語も、アーサー王がからみ、それなりに面白いのです。
この物語そのものではありませんが、ブルフィンチの『中世騎士道物語』(岩波文庫)に原型となったものが収録されてます。


== 物語について ==
イヴァンという人物は、ウェールズ起源の人だそうです。
ていうか、実在の人物らしい。私自身、詳しいことは知らないけれど。

それにしても、疑問といえば疑問だけれども、ウェールズとか寒い場所にライオンっているのでしょうか…?
ブリテン島、いやヨーロッパって基本的に北海道と同じくらいの緯度じゃなかったかしら。
そんなことを言っても始まらない。
ただ、イングランド王にリチャード1世っていう人がいまして、この人の渾名が『獅子心王』(Lion hearted)。
それなり以上に、ライオンはイングランド人にとって馴染みがあったのでしょう。

また、この物語は結構長い。
ウェールズの原作だと、ルネットのために1対3で戦って、すぐローディーヌと和解して終わるみたいです。
暇な方は、岩波版を読み比べてみると楽しいかも。

個人の見解をいうと、ルネットはいいキャラですよね。
正直、ヒロインはむしろ彼女ではないかと思う。
火刑寸前のところを主人公に救われるとか、ロマンスのワンシーンみたいな、っていうか物語か。

あと、構成上気になるのが寄り道が多すぎるかなと。
最初にローディーヌとの約束をすっぽかしたのもそうだけれど、ルネットの火刑が迫っているのに関わらず、ガウェインの甥・姪を助けるために巨人退治したり、妹姫の決闘裁判が迫っているのに悪魔の子と戦ったり…。
ギリギリで間に合うっていう演出効果はあるけれど、一本道でないから混乱するのですよね。


== 翻訳上のこと ==
まず、キャラの名前から。
一般的には、主人公の「Ywain」は「イウェイン」とか「ユーウェイン」とか発音させるのがいいのでしょう。
この物語はフランス人の書いたもの。
フランス語読みで「イヴァン」とさせていただきました。どうも、綴り自体「Yvain」となるようですが、まぁ、雰囲気的にそんな感じかなと。

ちなみに、主人公をイヴァンとするならば、「アーサー」はフランス語読みで「アルチュール」、「ガウェイン」は「ガーヴァン」とでもする方が整合するのだろうけれど、どうも妙な感じ。
「ガーヴァン、誰それ?」みたいな感じになると思うからね…。
そんなわけで、主人公はフランス語読み、その他は基本的に英語読みというわけのわからん仕様になってます。
加えて、読みは適当なので本当にそんな発音をするかどうかは知りません、すいません。

あと、重要人物なのにキャラ名が出てこないのが多いです。
ローディーヌやらルネットにしても、初登場時はずっと「she」とか「damsel」とかで通し、名前が出るのがwordで10枚ほど読んだ後っていうのはツライですよ。
名無しで話すすめるのがどうにも難しいので、「妹姫」やら「旅の乙女」なんかは私の方で勝手に名前をつけました。
原文読んでると、「she」がいったい「妹姫」のことを言っているのか、「旅の乙女」を指しているのか、甚だ分かりにくい。

クレティアン・ド・トロワの物語は、訳してみたい気持ちがありました。
でも、ランスロットは嫌いだし、パーシヴァルは未完だし、『エレック』か『クリジェ』あたりを訳してもても面白いかなぁ、とも思ったのですがあえてイヴァンをやってみました。
ちょうど、寸前で『神雕侠侶』などを見たのですが、その物語の主人公・楊過が格好良くてですね。
病気の嫁が南海に行ってしまい生死不明、なんやかんやで大鷲だけを友だちにして江湖を流離う楊過が、どうにもこうにもイヴァンと重なったのですよ。

さて、本サイト初の試みですが、物語の全訳という手法をとらず、編訳という形でやってみました。
安能務の『封神演義』とか『春秋戦国志』みたいなの、あるいは阿刀田高の古典シリーズみたいなのを目指しはしたんですけれど…。
…これが大失敗のようで、アクセス数は結構減りました。
まぁ、でも全訳は酷く疲れるのですよ。
特に、会話のやりとりは冗長な部分が多いため、バッサリやってしまった方が圧倒的にテンポはいいしね。

次は、もうちょっと考えることにしましょう。


2009/12/29

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