2章 騎士になった少年

 

グラストンベリーについた少年は、騎士達の前で丁寧に膝をついて挨拶をし、アーサー王に発言の許可を求めた。

 

アーサー王はすぐに、

「生まれてこのかた、お前ほど美しい顔を見たことがない。

君の名前を教えてくれないかね?

 

こう尋ねられると少年は、

「ボクは自分の名前って言うのを知らないんだ。

愚かなことだけど、家にいる間、お母さんに質問したことがなかったから。

でも、お母さんはボクのことをボー・フィスって呼んでたよ。」

 

これを聞いてアーサー王は言った。

「騎士になろうとするのに、自分の名前すら知らないとは妙な事もあるものだ。

が、それにしてもお前の顔はなんと美しいことか!

聖ヤコブと、その母親に掛けて、この子の母親が名前を付けなかったと言うのなら、皆の前で私が名前を付けてやろう!

お前は美しく、そして率直だ。お前にはなんとなく好感が持てるから、リべアウス・デスコヌスと名乗るがよい。『未知なる美男子』、という意味だ。

お前にはなんとも相応しい名前であるよ。」

 

(『リベアウス・デスコヌス』(Libeaus Desconus)はたぶん、英語じゃない。現代フランス語でもないけど、字の並びからフランス語かローマ語・ラテン語っぽい。でとりあえず、アーサー王が英語で『未知なる美男子』(The Fair Unknown)と言い直している。アーサー王には、もっと英国人のプライドを持って、英国風の名前を付けろよ、といいたい)

 

そうして、リベアウス・デスコヌスは名前をもらったのと同じ日、アーサー王によって騎士に叙任された。

輝く鎧をもらい、腹帯に剣を指し、金メッキされ、グリフィンの絵が描かれた盾を首から下げる。

 

そしてリベアウスの父親であるガウェインは(実は親子関係があるとは知らなかったが)、リベアウス・デスコヌスを平野に連れて行くと騎士に相応しい武器の使い方を指導した。

 

若者が騎士に叙任されたとき、アーサー王の繁栄を願いながらこう言った。

「王様、これからどんな人が王様に助けを求めてくるにせよ、その冒険はボクに任せて貰えませんか?」

 

アーサー王は答えた。

「よし、どんな戦いであろうとも、お前に任せるとしよう。

そうは言っても、お前は若すぎるから満足に戦うことはできないと思うがね。」

この言葉に対し、騎士、公爵、侯爵、男爵らは何も喋ることはなくテーブルについた。彼らは身分に相応しいマナーで食事をすることができたのである。

 

アーサー王がそうして食事しているとき、宮廷に馬に乗り()、ドワーフ(小人)を連れた乙女が汗だらけになりながらやって来た。

この乙女の名前はエレンといい、美しく、身分の高い女性の使者であった。

 

 調べて見たところ、広間など、屋内に馬で乗りつけることは中世ではよくあることだったそうです。)

 

インド絹でできた服をきていたドワーフは、生意気そうに叫んだ。キリスト教徒の中には、彼のような姿をしたものはいないことだろう。

そして、ドワーフは前を開けた外套を着ており、ひげは黄色、髪は帯に掛かるほど長い。さらに、靴は金ピカに輝いている。その服装ときたら、まるで貧乏を知らない騎士のようである。

このドワーフの名前はテオデランといったが、その名は南から北まで広く知られるものである。

なぜなら、このドワーフは音楽に優れており、プサルテリー(指や鳥の羽で弾く即興演奏用の中世箱琴)や、竪琴、バイオリンなどの楽器の演奏ができた。さらに、彼は高貴な物語をたくさん知っており、女性などから人気も高い。ドワーフが女性や赤ちゃんの前で話すとき、遅れることは許されない。

 

乙女は丁寧に膝をついて騎士達に挨拶をすると、王に対してこう言った。

「悪いことが起きたので、貴方に報告いたします。

包囲攻撃を受け、城壁の中はより一層悲しいことになっているのです。

私の主人である美しいシナドウンは虜囚となってしまいました。

主人は自分を解放してくれる、強くて優れた騎士を派遣してくれるように頼んでおります。」

 

これに対し若者は、

「アーサー王、我が主よ。

貴方の言葉が真実ならば、美しいレディを助けるための冒険はボクのものですよね!」

 

アーサー王は、

「うむ、真実だとも。

レディを剣から守るため、神はお前に優雅さと力強さを与えられたのだから。」

 

これを聞いていたエレンは悲しみにくれて叫んだ。

「ああ、なんたる厄日かしら!」

 

2009/8/11

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