8章 初恋の人と聖杯と

「ねぇ、兄弟」
とアンブロシウスは尋ねた。
「ここにある古い書物が伝える真実は、君の知識よりも多くのことが書いてある。
祈祷書については、眠くなるほどに誰かが読んでいるのを聞いたりもしている。
…なのに、聖杯についてそのように奇跡的で驚くべきことが書かれてないみたいなんだ。
正直で博学なものは、羊を導く。
世俗的な秘密ごととかゴシップは、私や年取ったご婦人達を喜ばせる。
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…ところで兄弟。ガラハドを別にすれば、君は冒険の最中、男性でも女性でもいいのだけれど、誰かにあったりはしなかったのかい?」

パーシヴァルは答えた。
「全ての男は誓いに束縛されていたし、女性なんて幻みたいなものだった。
兄弟、おいらが誓いを果たすときの冒険中にした、恥ずべき行いを懺悔してもいいかな?
おいらは、冒険中、草地で眠ったんだけど、カタツムリやイモリ、ヘビなんかと一緒に寝たものだ。
そして、おいらはやせて、顔色も青白くなって行ったけど、それでも聖杯がやってくることはなかった。
やがて、おいらは人口も多く素晴らしい街にたどり着いた。
その街で、おいらは花のように美しい乙女たちによって鎧を脱がされたんだ。
そんな乙女たちに連れられたおいらが宮廷に行くと、そこには城のお姫さまがいた。

あぁ、そのレディは、昔おいらが唯一思いを寄せていた女性だったんだよ。
昔、おいらがレディの父親の宮廷で、従者をやってたとき、彼女はほっそりとした乙女だった。おいらの心は彼女に釘付けだったものだよ。
でも、おいらたちはキスをしたり、結婚を約束したりとかいうことはなかったんだ。
で、冒険中に再会したときには、彼女は一度結婚していたけれど、夫が死んでしまって未亡人になっていた。しかも、夫の持っていた土地や財産なんかをまるごと相続していたよ。

おいらが街に滞在している間、彼女は毎日、日ごとに豪華な晩餐を用意してくれたっけ。
彼女の恋心は、むかしのようにおいらに向けられていた。
でも、ある朝のことだ。おいらは彼女のお城の近く、果樹園下の川沿いを散歩していた。彼女は後ろからついて来ていて、しきりにおいらのことを素晴らしい騎士だと誉めて抱擁すると、おいらにキスをした。そして、彼女の持つ全ての財産をおいらにくれるって言い出した。
そのとき、おいらはアーサー王の警告を思い出した。おいらたちのほとんどは炎の中をさまよい、冒険は失敗するだろう、っていう警告だ。
すぐに彼女の治める住民のリーダーがおいらのとこにやってきて、ひざをついておいらに嘆願したんだ。

“我らは貴方についての話を聞きました。
レディは、貴方は偉大な騎士だと仰っていますが、我らはそれを信じます。
どうかレディと結婚して、我らを統治して下さい。
そして、この地をアーサー王の領土のように支配していただきたい”ってね。

あぁ兄弟! それでも夜になるとおいらの胸には誓いに対する熱意が燃え上がり、起き上がると逃げ出すことにしたんだ。
そうは言っても、おいらは悲しくて泣いていたし、自己嫌悪でいっぱいだった。だけど、聖杯の冒険は、彼女より優先しなきゃいけない。
ガラハドに出会ったのは、こういうことがあった後で、それからは彼女のことを気にかけたりすることはなかったよ。」
 

2009/7/24

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