7章 ガラハドの昇天

「やがて、おいらは低い谷地にたどり着いた。
谷の深いことと言ったら、さっきの丘の高さを深さに変えたほどに深い。
だけど、おいらはそんな谷底に修道院を見つけたんだ。
そして、その庵には聖なる隠者がいたので、おいらはその幻のような隠者に話し掛けて見ることにしたんだ。

隠者は、
“君には真の謙虚さが足りない。謙虚さは全ての美徳を生み出す母親のようなものだ。
全てをお創りになった方、キリストが自らを裸で栄光ある死の運命を持つ人間の姿に変えられたときのことだ。
『私のローブを脱がせなさい。全ての物は、汝の物だ』と彼女は言った。彼女の姿が急に輝きを発するのであるから、天使達は驚いて彼女に従った。
彼女は流星のように天使を従え、東方にいる白髪の賢者のもとに導いた。
だが、汝は彼女のことを知らないだろう。
汝の才能や罪について考えたことはあるかな?
汝は自らを見失っているから、ガラハドのようになることはできないぞ。”
と、言った。

すると、次の瞬間、銀の鎧に身を包んだガラハドが突然おいらたちの前に現れた。ガラハドは、修道院のドアに槍を立てかけて、中に入ってきたから、おいらたちは膝をついてお祈りをした。
それから、隠者はおいらの喉の渇きを癒してから、聖なる物を1つ見せた。
ガラハドは、おいら達がみた聖なる物について話し始めた。
“君は、もっと別に聖なる物を見たかね?
私は、礼拝堂に降臨した聖杯の姿を見たことがある。
聖杯は、元気な顔の子供のようで、パンを叩いて行ってしまった。
そして、私が向うところに付いて来て、君の姉さんが教えてくれたのとは違っている。
この聖なるものは私の側に降りてきて、離れることはない。
昼も夜も、私とともに移動してくっついて来るのだ。
昼のうちはかすかに気配があるだけだけれど、夜になれば血のように赤くそまる。
漆黒の沼から血のように赤い聖杯が出てきて、
はげ山の頂上で血のように赤い聖杯が現れ、
眠るときには、湖の下で血のように赤い聖杯が沈んでいるのだ。
そして、騎乗したときの私の強さときたら、行く先々で悪しき習慣を破壊しつつ異教徒の支配地を通過し、異教徒と戦い、これを打ち破って勝利して来た。
だが、私の時間はあともう少しだから、出発しようと思う。遠く離れた精神的な都市で戴冠しなきゃならないんだ。
どうだい、私についてくるならば、君も聖杯を見ることができるかもしれないよ”


「ガラハドが喋っている間、ガラハドの吸い込まれるように瞳に引き込まれ、おいらはガラハドの言葉を信じるようになってきていた。
そして、日没が近くなったころ、おいらとガラハドは隠者の家を出発することになったんだ。

「おいらたちは、誰も登りきれないような丘を上がった。
丘の溝からは冬みたいに冷たい大量の水が流れていた。
嵐が吹いていたのだけれど、おいらたちが頂上に上がったとき、この嵐はやんでしまったんだ。
どの瞬間も、おいらの視界にはガラハドが身に付けてる銀の鎧と、薄暗い空が入ってた。
あたりは強い雷が鳴り響いてる。やがて雷は近くにあった古く、乾いているけれど腐り掛かった木に落ちて、炎を上げた。
そんな丘の上で、おいらたちは、左右の両方側、視力のとどくギリギリの場所に建物を発見した。
建物の一方は真っ黒で、黒い沼が嫌な匂いを発していた。
もう片方はの建物は真っ白で、人間の骨が使われていた。
古代の王がそう言う風に建てたのである。そして、建物はたくさんの橋で繋がっていて、千の橋は海にまで繋がっていた。
ガラハドは橋から橋へと跳び移っていったんだけど、そのたびに橋は炎を挙げて消えてしまうんだ。
おいらは、どうにかして着いて行きたいものだ、って考えながらその様子を見ていた。

それから3度、天が開いて雷を伴った炎が燃えたけど、これはまるで全ての神の子たちが叫んでいるかのようだった。
まず、1度目だけど、ガラハドが銀の鎧を星のように輝かせて遠い海の上で立っているときだ。
ガラハドの頭上から金襴の布に覆われた、光り輝く聖杯と、並外れた速度で動く小船が現れた。
…小船、という表現が正しいのかはさておいて、それはこちらに向ってくるようだった。
2度目に天が開いたとき、再び炎が轟音を上げた。そのとき、おいらの目には、ガラハドは白銀の星のように見えた。
そして、ガラハドは小船に乗り、帆を挙げると、小船はまるで羽の生えた生物のようになったんだ。
頭上の聖杯は薔薇よりも赤く、聖杯を包んでいたベールがはがれたことは、なんともおいらを喜ばせた。
次の瞬間、炎とともに3度目に天が開くと、小さな星々が降って来たんだ。そして星の向こうには精神的な都市(スピリチュアル・シティー)が見えた。
精神的な都市にある尖塔と城門は、海から採取された栄光ある真珠のようだったなぁ…。
そこは、もはや聖人たちが最後にたどり着く場所ではなくなってた。
そして、星からは薔薇色の光が都市に降り注いでいた。

おいらは、この光の正体は聖杯のモノで、地上では2度と見ることができないだろう、って考えていた。
それから、天の洪水が、あたりを水浸しにしてしまった。
丘の上は、これまでに経験したことがないほどの危険地帯になってしまったよ。
それでも、おいらは夜明けには礼拝堂に帰ってくることができた。
その後は、隠者さまが預かっておいてくれた馬に乗り、おいらはアーサー王の宮廷に帰還した。

2009/7/24

back/next
top

inserted by FC2 system