6章 全ては塵に変わるだけ

「おいらは、心躍らせていたんだ。
試合の最後には自分の能力を発揮して、おいらの槍が多くの、そして名高い騎士達をまかしたんだから。
大地に緑は見えなかったが、おいらの血はたぎり、きっと聖杯に到達できるんだって信じてた。

「でも、その後になって陛下の言った暗い警告のことを思い出したんだ。
騎士たちのほとんどは炎の中をさまよい、精神的に参った様子で帰ってくるだろう、って警告だ。
昔のおいらが酷い言葉を口にしたのだから、
昔のおいらが嫌な考えが思い浮かべたのだから、
昔のおいらが悪い行動をとったのだから、
“この冒険はお前には相応しくない”という声がしておいらは目を覚ました。
目を覚ました場所は砂だらけの荒野で、しかもおいら1人きりだった。
喉が渇いて死にそうなおいらは“この冒険はお前には相応しくない”って叫んでいた。


「それからも、おいらはさらに旅を続けた。
喉が渇いて死にそうになったときのこと、おいらは芝生が生えている川辺にたどり着いた。
鋭く、素早く流れる白い波に、おいらの目と耳は釘付けになったんだ。
さらに、小川のそばにはリンゴの木があって、いくつかのリンゴが芝生の中に落ちていた。

おいらは、
“よし、ここで休んでいこう。”と言ったんだ。
“おいらはこの冒険にはふさわしくない”とも言った。
おいらが小川の水を飲もうとしたり、リンゴを食べようとすると、それらはみんな塵に変わってしまい、おいらは乾燥した荒野に一人ぼっちで残された。

「そうしていると、向こうの美しい家の扉が開き、優しく無邪気な瞳の女性が顔を見せた。
その女性は丁寧な態度で腕を挙げると、“ここで休んでいきなさい”、って言ったんだ。
でも、おいらが女性に触れると、彼女はたちまち塵になって消えてしまい、家も壊れかけた小屋になってしまったんだ。
しかも、小屋の中には赤ん坊の死体があった。この死体でさえも塵になってしまい、おいらはまた1人で残された。

「それからも、おいらはさらに旅を続けた。
でも、喉の渇きはますます強くなってくる。
黄色に輝く大地をクワが耕していた。
そして、農夫がクワを残したまま、大地に倒れてしまった。
さらに、搾ったミルク入りの桶を残して、乳搾りの女も倒れてしまった。
おいらは、混乱して“太陽が、昇っているなぁ”以外のことを考えられなくなってしまった。
それから、おいらの方に向かってくる男に気が付いた。
その男は、金の鎧に宝石で装飾された金の兜のかぶっている。
さらに、馬にも宝石で装飾された鎧を着せていて、どこもかしこもきらきらだった。
そのきらきらした男がやってくると、光のせいでおいらは目が見えなくなってしまったんだ。
まるで、世界の主であるように巨大な存在に思えたよ。
だけど、おいらががっかりしたのはこれからだ。
その男がおいらの側に来て、おいらを抱きしめてくれた。
で、おいらもその男に触れて見たら、その男も塵に変わってしまったんだ。
結局、おいらは喉も渇いてて疲れきっていた状態なのに、砂だらけの荒野で1人きりになってしまったんだ。

「おいらが馬に乗って進んでいくと、巨大な丘を発見したんだ。
その頂上には城壁で覆われた街があった。
見たところ街の尖塔はとがっており、頂点は果て無き空を目指していた。
門の近くには群集が集まっていて、街を目指して丘を登るおいらに向けて“ようこそ、パーシヴァル卿! 人間の中で最も強く、純粋なる方よ。”って言うんだ。
おいらは喜びながら登って行ったんだけど、頂上には誰もいなくて、物音一つしないほど静かだった。
街へ進んで見ると、昔は人が住んたらしいけど、今は廃墟になっていた。
だけど、おいらはとても年を取った1人の老人を見つけることができたんだ。
“貴方にお仲間はいないのですか?”とおいらは尋ねた。
すると、あえぐように聞き取りづらい声で老人が答えた。
“それは、わしに対して言っておるのかね? 君は、どこから来た、何者だ?”
と、これだけ言うと、その老人までもが塵に変わり、姿を消してしまった。
またしても1にんぼっちで残されたおいらは、悲しみのあまりうぶやいたものだよ。
“あぁ、もし聖杯を見つけることができても、おいらが触れた瞬間、塵に変わって崩壊してしまうんじゃないだろうか…。”って。

2009/7/20

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