5章 アーサー王の反対

「そこで、陛下は1番近くにいたおいらに尋ねたんだ。
“パーシヴァルよ、宮廷は誓いを立てる声やらで大騒ぎだが、一体なにがあったのだ?”

「そういうわけだから、兄弟。おいらは陛下に対し、なにが起こったかを説明したよ。姉さんが見た幻のことから全てを。
そしたら、陛下は、これまで見たこともないほど暗い表情を浮かべた。たしか、勇敢な行為が全て無駄だったときでもこれほど暗い表情はしてなかったよ。
“諸君、私は悲しいぞ。”と陛下は叫んだ。
“もし私がこの場にいたならば、君達は誓いを立てることもなかったはずなのに!”
おいらは、勇気を持って陛下に答えた。
“もし陛下がこの場にいたなら、陛下も誓いを立てたと思いますよ”、と。
陛下は、“あぁ、君は勇気のある奴だ、だが聖杯とやらは目にしたのかね?”

「だからおいらは言ったのさ。
“いいえ、陛下。おいらは確かに音を聞き、光を見ました。
だけど、聖遺物は見ておりません。
だからこそ、聖遺物を見るまで探求しようと誓ったのです。”

それから、陛下は、騎士の1人1人に対し、誰か聖遺物を目にしたモノはいるのかと質問したんだ。
でも、誰もが、“いいえ、見ていないからこそ誓いを立てたのです”って答えたんだよ。

「それを聞いて陛下は、“聞くが良い、諸君は実際の所、雲を見たことがあるか? 何を求めて荒野に向おうというのだ?”
と、質問した。

「すると、ガラハドは急に宮廷を震わせるような大声でアーサー王に返答したんだ。
“ですが陛下、私は聖杯を見たのです。
そして、聖杯は『ガラハドよ、着いて来るがいい』と叫んでおりました。”
って、ね。

「陛下は、
“ガラハド、ガラハドよ。そなたの見たものはみな幻だ。
その聖なる修道女とそなたはある予兆を見たのだ。
パーシヴァルと、その姉よりも神聖なものはこの世にない。
その予兆とは、私が作り上げた騎士団を壊滅に追いやるしるしなのだ。
だいたい、そなたは騎士団のリーダーではないか。”

と、陛下は騎士たちに対して厳しい態度で接したんだ。
さらに、
“タリエシンの喉から出る歌声は我らを満足させるが、下手な奴の歌は聞くだけ不快だ。
そしてランスロットは、かつて5人の騎士を相手にして打ち負かしたこともある英雄だ。
だが、いまの若者は1人の騎士を倒すこともないのにランスロットのように認められたりするだろうか?
ランスロットならば、聖杯を目にすることができるかもしれない。
だか、諸君らはどうだ?
ガラハドか、さもなくばパーシヴァルでなければ成功できない冒険なのに、どうしてそんな無茶なことを言うのだ?”

こんなふうに、陛下がガラハドのすぐ後においらの名前を挙げたものだから、ちょっと嬉しかったな。

“いいえ。”とガラハドは答えた。
“強く、不正を正す力を持つ戦士の力とは、奇襲による暴力です。
かつて、騎士たちは12の戦争において、異教徒の血により白馬を真っ赤に染めたではありませんか。
これは、盲目の人間にさえ明らかな理屈です。
だから、諸君のなした誓いは神聖なものです。
諸君は、宮廷にいくつもの嘆願がもたらされるのを御存知でしょう。
私が座るまで空席もありましたが、騎士団にとってこれは高貴なる行いをするチャンスです。これに挑戦しなければ、灼熱の泥沼で焼かれることになるでしょう!
諸君らのほとんどは、再び帰ってくる事はできかもしれない。
だが、私は暗闇の予言者だと考えるかもしれない。
さぁ、皆、翌朝の競技場では優雅な娯楽に興じて見ないかね?
そして、我らが冒険に出発する前に、私は完全無欠の強さと言うものを騎士たちに示すから、楽しみにしていて下さい。”

「そして、次の日の夜明け、アーサー王の側近である円卓の騎士たちは、競技場でトーナメントをすることになったんだ。
何本もの槍が砕けたが、なかなかアーサー王はやってこなかった。
おいらとガラハドは予言どおりに力を発揮して、たくさんの騎士を打ち負かした。これを見て、観客達は柵を壊しそうなほど熱狂しながら、おいらとガラハドの名前を叫んでいたよ。

「だけども、夜明けのことだ。
えっと、兄弟、キャメロットについて知っているかい?
キャメロットは、古代の王が陥落することを恐れ、奇妙な感じに、豪華に、そして薄暗い感じに作り上げた街なんだ。
屋根は空に向って不安定にのびていて、屋根からは通り道を歩く人々の姿を見ることができるようになっていた。
下の方には長く、豪奢な回廊があり、悲しむ御婦人もいた。
ぐらぐらしている壁には首に重りを付けた龍が巻き付いており、その龍の様子は豪雨をもたらす雷よりもずんぐりとしている。
そして、騎士たちは各々ワイバーン、龍、グリフィン、白鳥などと名づけた馬にまたがって街角で、“成功を祈る!”と励ましあったんだ。
でも、そんな中に嘆き悲しむ騎士や御婦人もいた。また富めるものにも貧しいものにも悲しんでいるものはいたね。
特にアーサー王は悲しみのあまりまともに口を聞くこともできないでいたし、中央通りにいた王妃は馬に乗って出発するランスロットを見て悲鳴を挙げた。
“あぁ、この狂気は私の罪のせいだわ!”って言っていたよ。
それから、城門に3人の女王がやってきていた。
で、僕らはそれぞれ旅に出たんだ。

2007/7/16

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