11章 ランスロットの報告

「王は次に、
“では、ランスロットはどうだね?
我が友にして、最強の者よ。君にとってこの冒険は有益なものだったかい?”と尋ねたんだ。

「これに対し、ランスロットはうめくように答えたんだ。
“とんでもない、最強ですって!”
ここでランスロットは一旦言葉を切ったんだけど、おいらはそのときのランスロットの目を見て、どこか狂気の炎を宿しているみたいな印象を受けたよ。

「“あぁ、陛下。我が友よ。
あなたが私を友として下さると言うことは、なんとも幸せなことです。
貴方の騎士達が誓いを立てているとき、私はただ聖杯を見、触れることだけを願いながら誓いを立てました。それから、それぞれ別れ別れに出発しました。
私が聖者に出会い、これまでのことを話したところ、聖者は嘆きながら教えてくれました。なんでも、我らはばらばらになり、そして私の冒険は成功しないと言うのです。
ですが、私は神の御意志に従って誓いを立てました。
それから、私は自分の心を2つに引き裂いてしまいたい、と思いながら冒険を続けました。

“かつてのように、狂気が襲いかかってきており、遥かなる荒野にたどり着いていました。
その地で、私は数人の男に打ち負かされてしまいました。その騎士たちは、以前私の剣や槍で倒したことのある者たちでした。
私は愚かにも、雑草が茂るほかは何もない岸にきてしまったのです。
それから突風が吹き始め、海や山を溢れさせるように吹く風により、水の音を聞くこともできないほどでした。
大雨によって砂は川底のように水浸しになり、曇りがかった空は雷が鳴り響いていた。
黒く染まった海の泡は小船を揺らし、錨を下ろしていたにもかかわらず小船を半ば飲み込んでしまっていた。

“私の中の狂気は、
『船に乗って自殺してしまおうか。海ならば私の罪を洗い流してくれるだろう。』
と、囁いてきました。

“私は錨を上げると、小船に飛び乗ってしまいました。
7日もの間、私は星と月を見ながら、陰気な海を漂いました。
そして7日目の夜、風が弱まるとともに、小石が波にジャラジャラと打ち合う音を聞いたのです。小船が陸に到達したことに気づいた私があたりを見渡せば、カーボネックの魔法の塔が目に入りました。

“カーボネック城は岩を重ねたような作りになっていて、出入り口が海に向って開かれていました。だけど、その階段は壊れていました。
空に満月が浮かんでいたけれど、通路の両側に控える獅子を除いて、あたりには何もありませんでした。
私は小船を降りると、剣を装備しつつ階段を登ることにしました。
炎のようなたてがみを持つ獅子は、人間のように2本足で立ち上がると、互いの肩を組みました。
私は獅子たちの間に進むと、獅子を攻撃しました。

“そのとき、私は声を聞いたのです。
『恐れるな、前に進め。
疑いを持つならば、獅子はたちまちお前を引き裂いてしまうだろう。』

“戦ううち、剣は私の手から飛んで行ってしまい、地に落ちてしまいました。
それから、私は一度通り過ぎたのですが、音楽堂に向って行きました。
ですが、音楽堂には長椅子とテーブルですらおいてありませんでした。壁や盾には騎士の絵が書かれていて、出窓からはうねる海の上に満月が見えるほかは、何も目に入るものはない。
ただ、この静かな広間で、私はヒバリのように澄んだ歌声を聞いたのです。この甘い歌声は東側の塔の上から聞こえてきました。
そこで、苦しみながらも千の階段を登ってみれば、頂上にはこれまで夢にも見たことがないようなものを見ることができたのです。

“ついに、扉に到達すると、その隙間から光が漏れていて、さらに声が聞こえてきました。
『神と聖杯に、名誉、喜び、栄光を』と。

“それで、私は狂ったように扉を開けて見たのです。
すると、竈の7倍ほどの熱風が吹いてきて、雷に打たれたうえ、焼きつく感じになった私は目が見えなくなってしまったのです。
そんな激しい衝撃で、私は気を失ってしまいました。
…ですが、確かに聖杯を見たように思います。
聖杯は真紅の布で覆われていて、その周囲には偉大な、荘厳な様子の天使たちが飛び、こちらを見ていました。
きっと聖杯を見ると誓ったのに、私の狂気と罪のため失神してしまいました。見ることができたのは、ベールに包まれている姿だけ。
つまり、この冒険は私のためのものではなかったのでした。”

「ランスロットが話し終えると、宮廷は沈黙に包まれてしまったよ。
だけど…、ガウェインがその沈黙を破った。
でもね、兄弟、ガウェインの言葉は愚かなものだから、君に言う必要はない。
まったく、ガウェインというのは傍若無人で不敬な騎士だよ。
そして…、陛下は豪胆な声で喋り始めた。これについて説明することにしよう。
 

2009/8/8

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