3章 ブリーセントの条件

 

 

ブリーセントは答えた。

「ねぇ、坊や。アーサーを王だろ認めない人はかなりいるし、これから認めなくなる人もいるわ。

若いころ、アーサーと過ごした時間も多いし、アーサーが王者の風格を持っているとも聞いているわ。

でも、親密な関係だとも思っているのと同じくらいに疑いも持っているのよ。

そんな気楽に故郷を離れ、命を、体を、自分自身を未だ王と認められていないような男のために危険にさらすと言うの?

(時系列的に、この物語は相当初期。グィネヴィアと結婚した直後くらい)

坊や、お願いだから、行かないで!

 

ガレスは素早く答えた。

「時間がありません。引き止めるつもりなら、ボクは火の中を歩いてでも出発します。

お母さん、お願いですから許可を下さい。

それに、王としての能力がない人間が、王国を脅かすローマ帝国を撃退し、異教徒を打ち負かして平和をもたらすことができないでしょう?

ボクたちに自由をもたらした陛下におつかえするべきではないでしょうか。」

 

成長した息子の断固たる意志を変えさせるのは無理だ、そう感じたブリーサントは策略を持ち出した。

「火の中でも進んででも、出発するって言ったわね?

火の中を歩くものは、煙を気にかけないもの。ええ、分かったわ。行ってもいいわよ。

ただし、1つ条件があるわ。

王の前で騎士になるのを望む前に、お母さんを愛し、そして言うことを聞くのです。」

 

ガレスは叫んだ、

「それが1つでも100でも任せてよ。さあさあ、早く言ってください。どんな条件でもやってみせますよ」

 

ブリーセントは、ガレスを見ながらゆっくりとこう言った。

「坊やは身分を隠してアーサーの宮廷に行かなければなりません。

そして台所の下働きをして働きながら、食べ物・飲み物の給仕をしたり、お皿を手渡したりするのです。

そして、誰にも名前を教えずに1年と1日の間を過ごすのよ、できるかしら?

 

栄光へ進むための唯一の方法が、よりによって身分の低い台所下働きをすることだとしたら、高貴なガレスのプライドは耐えることもできないから諦めるだろう、そうブリーサントは信じて息子を見つめた。

これで息子は戦いから引き離し、城の中に留め置くことができるに違いない。

 

しばらく黙り込んでいたものの、ガレスはこう答えた。

「奴隷となっても、魂を縛り付けることはできませんよ。

ボクは戦いの世界を選ぶことにします。

ボクはお母さんの息子だから、お母さんのその言い付けには従うことにするよ。

だから、ボクは条件を果し、お母さんの意志から離れて自由を得るんだ。

それゆえに、ボクは身分を隠し、皿洗いや台所下働きとして働きましょう。

誰にも、名前を知らせることもないままに…、それが陛下であったとしても。」

 

それから、ガレスはしばらくの間その場にとどまった。

ブリーセントは息子が出て行ってしまうという悲しみで涙目になり、ガレスが出発するということに当惑しながら。その目は息子の向かうことになる方角を眺め続けた。

日の出とともに風が闇を運び去ると、ガレスは立ち上がり、眠っていた2人の従者を起した。

この従者たちはガレスが生まれたときから仕えていた者達である。

そして、ブリーセントは眠れぬまま過ごしていたが、気づかれないようにガレスは出発した。

 

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