最終章 夜明け

 

 

やがて、空には雲がかかり、稲妻が鳴り響き、星々は姿を消してしまった。

乙女が馬を止めると、ガレス達もそれに従って馬を止めた。

それから乙女は腕を挙げ、穏やかにささやいた。

 

「むこうです」

 

3人は黙ったまま平地にそびえるペリロス城を見つめた。

城の近くには巨大な天幕が立っている。天幕は漆黒の布でできており、そのふちは暗い赤で縁取られ、黒い旗が立っている。

そして、旗には黒い角笛が掛けられていた。これは、自分に挑戦したい者がいたら角笛をならせ、という敵からの意思表示である。

 

ガレスは角笛をつかみ取ると、素早く、リネット達が邪魔をするより早く、角笛を鳴らした!

 

角笛の音は壁に反響し、かがり火はきらめいた。

火がともると、さらにガレスは角笛を鳴らした。

虚空を蹂躙しながら、影とともにくぐもった声が聞こえてきた。

 

一方、地面にいるガレス達よりかなり上方、城の窓のところではレディー・リオノロスが侍女に囲まれながら立っていた。

リオノロスの美しさはかがり火の中、とても輝いており、礼儀正しく白い手を振っていた。

 

結局、長い沈黙の後、ガレスは3度も角笛を鳴らした。

ついに、巨大な天幕の黒い布がゆっくりとまくりあげられた。

現れたのは、巨大で夜色の馬と、白い骨で飾られた夜色の甲冑に身を包んだデスである。

死者のように笑いながら10歩だけ進み、夜明けの直前の薄暗い明かりの中、怪物はそれだけの距離を保つと無言になった。

 

だが、ガレスは怒りを込めて叫んだ。

「やい、お前は人の10倍強いらしいな!

どうして神がお前なんかにそんな力を与えられたのか、ボクには理解できない。

きっと、そんなのはお前に対しより恐怖心をあおるためのデタラメだろう。

ボクはお前を倒すが、哀れみを込めて墓は花で覆ってやろう」

 

恐怖に震えていた乙女は、この台詞にうっとりとした。

そして、夜の騎士、デスに嫁がなければならない運命を背負わせられていたレディー・リオノロスも涙を流しながら手を握りしめていた。

ガレスの頭は、兜の下でピリピリしていた。

そして、ランスロットでさえも血が凍るような感覚に襲われ、仰天していたのである。

 

すぐにランスロット卿の馬が激しく嘶くと、デスの黒い軍馬は乗り手とともに前方に跳ね飛んだ。

恐怖によって目を閉じることなかった者達は、デスが地面に投げ出され、ゆっくり立ち上がる様子を見た。

だが、ガレスはデスの頭部に一撃を加えた。

 

ガレスの強烈な攻撃は、頭蓋骨を真っ二つにするのと同じくらいの威力があり、デスの兜の半分は右に、もう半分は左側に落ちて転がった。

すると、兜の中から若い少年の輝くような顔があらわれた。

少年の容貌は、まるで新しく咲いたばかりの花のよう。

 

少年は泣きだして言った。

「騎士様、僕を殺さないで下さい!

3人の兄達に命令されてこんなことをしていたのです。

近隣住民に恐怖を与えてレディ・リオノロスから遠ざけるためだったのです。

兄達は、まさかここまでやってくる騎士がいるとは思ってもいなかったのです」

 

これを聞いて、ガレスは自分といくらも年の違わない少年に対し、巻台に応えた。

 

「少年よ、アーサー王の宮廷の筆頭騎士に挑むなんて、3人は正気だったのかい?」

 

「騎士様、兄達が僕に命令したのです。

兄達は陛下を、それに陛下の友人であるランスロット卿を憎んでいます。

だから、川でランスロット卿を死なせようと考えていたのです。

でも、まさかここまでたどり着けるなんて考えてもいなかったのです」

 

こうして、暗い日々は終わりを告げ、幸福な日々がやってきた。

レディー・リオノロスと彼女の家のモノは、踊り、歌ってデスをからかった。

恐怖に震えていた日々の後、その元凶がたんなる少年であったと分かったからだ。

このように喜びがあふれ、ガレスの冒険は達成された。

 

むかし、ガレスの物語をした人は、ガレスがリオノロスと結婚した、と言ったが、後世の人はリネットと結婚したのだと語るのである。

2009/5/27

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