10章 騎士への道
このようにして、下男としてガレスは1ヶ月の時を過ごした。
しかし、それから1週間後のこと、ブリーサントは息子のガレスに対し厳しい誓いを立てさせたことを後悔し、ガレスがいない城での暮らしを悲しんでいた。
三日月の形が変わるころ、ついにガレスの誓いが解かれ、武器を持つことが許されることになったのである。
ガレスは、このことをロット王の従者から聞かされた。
この従者はかつてはロット王に仕えトーナメントに参加したこともあり、幼いころはロット王とともに過ごし、追いかけっこをして遊んだという縁の深い男である。
そんな従者から母の伝言を聞かされると、ガレスは喜びで頬を真っ赤に染めた。
どんな乙女が頬を染めてもこれほど真っ赤にならないだろう。
そして、跳ね上がって呵々大笑する。
「悪魔の足元に膝をついたこともあったが、暗愚さから解放されたボクは聖ペテロに跪いているのだ。
この知らせは、他ならぬこのボクを街に出かけさせるものだ!」
それから、ガレスは1人でいるアーサー王を探し、見つけるとことの次第を報告した。
「ガウェインから聞いたのですが、ガウェインは楽しみのために戦うと言うのだ、と言っていました。ボクはそれを聞いて驚いたものです。
槍試合があればボクは騎士になれるでしょう。
秘密のままに、ボクの名前を聞かずにボクに最初の冒険を与えてください。
灰の中から飛び出す炎のように、ボクは戦って見せますから。」
アーサー王は穏やかな目を伏せると、ガレスを制止させた。そして、ガレスが赤面していると、手に口付けをするためにガレスを屈ませると、
「君のお母さんが教えてくれたよ。君がここに来ている、と。それから、お母さんは君を私の騎士にすることをお望みだという。
騎士になりたいのかね?
私の騎士は誓いを立てなければならない。
勇敢にあることを誓い、優しさをもつことを誓わなければならない。
さらに、愛に対して誠実であることを誓い、王に対して忠実であることを誓わなければならない。」
ガレスは軽やかに膝をのばすと、
「陛下、ボクは勇敢であることを貴方に誓います。
陛下が与えてくださったことに報いるため、忠誠も誓います。
だけど、執事のケイはボクに充分な肉や飲み物をくれませんでした!
それから、愛に対してだけど…。ボクはまだ愛を知りません.
ですが神の御意思により愛を得たなら誓いを果たしましょう。」
これを聞いてアーサー王は、
「だが、秘密のうちに騎士にすると言うのは…。うん、彼には知らせなければならないな。
その男は、最も高貴で、私が宮廷でもっとも信頼に足る人物なので、この事実を教えないわけにはいかないのだ。」
「はい、ランスロット卿には知らせなければなりませんね。
なんと言っても、もっとも高貴で、陛下がもっとも信頼する人物ですから!」
「だが、どういう理由で他の人間に秘密にする必要があるのかね?
むしろ、私としては、そして騎士としても、こういうことは広めたほうがいいと思うのだが」
ガレスは陽気に答えた。
「焼きあがる前のケーキなんて、手に入れる価値があるでしょうか?
ボクの名が有名になるまで、無名のままでいたいのです。
ボクは、ボク自身の行動で評価されたいのです。
それは、遠い日のことではありません。」
アーサー王と手を握り、ガレスは微笑んで見せた。
ガレスの若く、そして活発な様子を愛したアーサー王は、あまり気はすすまないものの、これを許した。
そのあと、アーサー王はこっそりとランスロットを呼びつけてこう命令した。
「私はガレスに最初の冒険をあたえるつもりだ。ガレスはまだ騎士の証を立てていない。
宮廷でガレスが名乗り出たなら、君は馬に乗り、ガレスを追いかけるのだ。
獅子を描いた盾を持ち、ガレスが敵に倒されたり、殺されたりしないように助けてやってくれ」