1章 ガレスの決意
ロット王とブリーセントので末子で、子供達の中で最も背の高いガレスは春の大雨を眺めていた。幹の細い松の木は、土台を失い、倒れ、転がって行ってしまった。
「あんな感じに…」ガレスはつぶやいた。
「良からぬ騎士や邪悪な王がボクの前に現れるのなら、ボクの槍が、もし槍を持てたらだけど転がしてやるんだけどなぁ…。
あぁ、それにしても凄い急流だ。
凄い勢いで、全てを流し去ってしまう。水なんてモノは、しょせん膨れ上がった冷たい雪でしかないのに。
それに比べて、ボクは生きてて熱い血が流れている。神がそうなされるのだ。
造物主がなされたことだ、ボクはそんなに詳しいわけじゃないけど、そのくらい分かるんだ。
お母さんの前でも強く、機転を利かせられますように。
動揺して言うことを聞いているのが長引けば、うまく説得されて牢獄にいれられちゃうから。
お母さんは、まだボクを子ども扱いするんだもん!
本当に、困った母さんだよ!
天はそのためにお母さんを作られたんだろうけど、ボクが拘束を解いて飛び立つまで、お母さんはうんざりした目で絶え間なくお祈をさせせてボクを困らせるんだ。
高い所を旋回するワシは太陽を浴びて、それから降下して獲物に襲いかかり、死に至らしめる。
アーサー王が作り上げた騎士の役目は、世界を浄化することだ。
そういえば、夏のこと。ガウェインがモードレットとこっちにやってきたとき、既に騎士になっているモードレットと試合するように言ったっけ。
モードレットは力不足だった。で、馬上でボクの一撃を受けたんだ。
そのとき、モードレッドは"お前は半分だけ俺より優れている"と言ったんだ。唇を薄く噛み締め、無言で不機嫌になった。あのとき、どうすれば良かったんだろう?」
ガレスは母のもとへ向かうと、ブリーセントの椅子の周囲を歩きながら尋ねた。
「お母さんは僕を子ども扱いするけど、ボクを愛してますか?」
ブリサントは笑って、
「ガレスちゃんは、まるでガァガァなくガチョウ(従順で愛嬌があるが、間の抜けている)みたいに質問するのね。」
「それで、お母さんはボクを愛しているのか聞いているのです。僕がガチョウだろうと飼いならされた動物でもいいけど、話を聞いてください」
「分かったわよ、金の卵をもつガチョウさん」
ガレスは燃える瞳で母を見つめて答えた。
「違いますよ、お母さん。ボクの卵は他のガチョウの卵より素晴らしい黄金なんだ。
鷹にとって、そう高貴な鷹は手の届かない所に住み、金メッキをした椰子の木に『時祷書』を置くのです。
そして椰子の近くで狩をししてすごす。
ここで、例え話をします。
貧しいけれど、若くたくましい時分にはより高みを目指しこう考えるのです。
"挑戦し、何かを得ることができるのなら、拘束された王様よりも幸せなことだ”と。
だが、その若者が挑戦しようとするたびに少年時代からの恋人があわられて"やめるべきよ、愛にかけてお願いするわ。挑戦なんてしたら首を失うことになるわ"と言うとします。
お母さん、この若者は挑戦することもなく、首を失うこともありません。ですが、心は満たされぬまま、過去に埋もれて行くことになるのです」
これを聞いてブリーセントは、
「ねぇ坊や。危険を承知で挑戦して黄金の宝を得るつもりなの」
ガレスは燃える瞳で母を見つめて答えた。
「黄金ですって? ボクが黄金?
いいえ、全ての人が、あるいは世界の半分でもそのために冒険するとしても、ボクは黄金なんかじゃない。
むしろ鋼鉄だ。鉄でもってエクスカリバーが鋳造され、稲妻は嵐の中で輝く。これに慌てた小鳥は巣の中で泣き声をあげる。
これから解放してやるべきです、ボクを旅立たせてください。」