ガレスとリネット、解説

 

== 謝辞 ==
長々とお付き合いくださりありがとうございます。
この「ガレスとリネット」は『国王牧歌』の中でもかなり長い部類に入り、wordで約40枚弱。
まさかゆとりな私が終わらせられるとは、驚くばかり。

特に、半分近くまでヒロインが登場しないという展開に、何度となく投げ出しそうになったのは秘密です。
これも、たまに私のサイトに来てくだっさた方、web拍手まで下さった方の応援の賜物です。

 

== マロリー版との対比 ==
さて、内容ですがトマス・マロリーの『アーサー王の死』に収録されているガレスの物語とはかなりアレンジが入っています。
ところで、このガレスの物語、マロリー以前にこういう物語があった、ということが証明されていないらしく、原型となったものは散逸してしまったか、さもなくばマロリーのオリジナルだとか。
そんなマロリー版との最大の違いなんと言っても、リネットでしょう。
マロリー版だと、姉の救援にやって来て、台所下働きのガレスを罵り続けるところは同じなのですが、最終的な結婚相手はガレスでなくてガヘリスです。
で、なぜかガレスはリオノロスの方と結婚してしまうと言う…。

中学生だったころの私は思いました。
姉の方が身分的に高貴なのは分かる。
だけど、これまでツンツンしてたリネットがガレスを認めていくところが萌えるんじゃないか、と。
マロリーはしょせん、中世の作家。近代文化の最先端「ツンデレ」を知らなかったのだろう、と思ったものです。

しかし、19世紀の詩人、アルフレッド・テニスンは言葉で理解していたかは別として「ツンデレ」、すなわちツンツンした女性がデレ始めたときの破壊力を充分に理解していたのでしょう。
さすがと言うべきです。

…そんなサブカル的な話はここまでとして、重大な変更点は最後の戦いです。
マロリー版だと、最後の敵は「赤い国の赤の騎士」ことアイアンサイド卿という騎士で、日の出とともに力が増し、正午には7人分の力を発揮する、というガウェインのパクリみたいなキャラでした。
その他の敵も、順に「黒の騎士」「緑の騎士」「赤の騎士」「青の騎士」とか色つながりでした。
っていうか、「赤い国の赤の騎士」と「赤の騎士」がダブっているあたり、統一が取れてるようで取れてないな…。

これが、テニスン版だと最後の敵は太陽と真逆の「夜の騎士」、デスとなっております。
敵も、「明けの明星」「昼の太陽」「宵の明星」「夜」とかそんな感じ。
気づいた方もいるかもしれませんが、この4人は「幼年」「青年」「壮年」「死」を表しているとか。
それぞれの侍女を見ると、「明けの明星」のは少女達、「宵の明星」のは白髪の乙女達、で、「死」には侍女はいない、と。
っていうか、「宵の明星」の侍女は原文では「乙女」ってあったが、日本語にすると凄い違和感。

で、この「死」は恐ろしい前情報とは裏腹に、実は弱々しい少年だ、というのもどんでん返し。
正直、私としてはもっと派手に言って欲しかったんだけどな、少年漫画みたいに。
全身が鎧の皮膚「宵の明星」の直後なんで、期待してたのを外された感じですが、その辺は仕方ない、と。

 

== 翻訳上のこと ==
この物語では、ガレスの1人称を「ボク」に、リネットの台詞については『神雕侠侶』に出て来るサブヒロイン陸無双ちゃんを意識するなど、ちょっと遊びが入ってます。
無双ちゃんも、主人公のことを名前で呼ばず「馬鹿」と呼ぶいいツンデレキャラでしたので、つい。

他は特に遊びは入れてません。
タイトルで遊ぼうにも、大量のパロディを考えるのツライし、やりたいパロディはほとんど『ベイリンとベイラン』でやってしまっていたからなぁ。

ところで、作中、リネットはガレスのことを「ろくでなし」と呼んでいますが、原文だと「knave」。
「kichen-knave」で「台所下働き」、「knave」単体では「ごろつき、悪漢」だそうです。
みたところ、「knight」(騎士)と少し似てるんで、いっそ発音の近い「きちがい」とか舌っ足らずに「きしゃま」(貴様)とか考えてたのですが自重。
これに限らず、リネットの台詞は結構面白いのが多いのですが、いかんせん和訳の限界を超えてました。

また、「発音はなるべく可愛い方を採用する」主義の私としては、ヒロインのは「ライネット」と「リネット」の内、リネットで決定。
「ライ」の時点でライオンとか雷を想像して可愛くないもん。

で、姉は「ライオネス」「リオネス」「リオノロス」。
ライオンっぽいので「ライオネス」は論外として、可愛いので、「リオネス」を採用しようと思ったのですが、テニスン版は表記が「Lyonors」になってた。
あぁっ、「r」が邪魔で、「リオネス」とは発音できない…。
この姉妹に限らず、たまに表記が何通りもあるキャラがいて、私が昔読んだのだと姉は「Lyonesse」だったんだよう。

「y」は「イ」と発音するも「アイ」と発音するパターンもあるから、「Lyonesse」なら「リオネス」で行けたのになぁ。
そんなことを思いながら、「リオネス」を1個づつ消して行ったのは、痛い思い出。
もうないと思うけど、初版から読んでて急に姉の名前変わったことに不信を感じたかた、スイマセンでした。

2009/5/27

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