5章 ブリーサントの説明(下)

ガウェインとモードレッドが退出すると、再びブリーセントは話し始めた
「私は、何を知っているのと言えるのかしら?
私の母の瞳と髪は漆黒でしたし、私の瞳と髪も黒ですわ。
そして、ゴーロスも黒でしたし、ウーゼル王も夜色でした。
ですが、アーサー王はブリトンに住むどの人間よりも高貴な血を引いていますわ。
さらに言うならば、私が幼いころから気にかけていたことですが、泣きながら母が、“貴女には可愛い弟がいるのよ。あの子は、この世の理不尽なことから貴女を守ってくれるわ”、と言っていたのを覚えているのです。」

「では、」とレオデグランは言った。「御母堂がそのように泣いていたとして、貴女が始めてアーサー王に出会ったときはどのようでした?」

「あぁ!」とブリーセント。
「貴方には真実を話さなければなりません。
アーサーと初めて出会ったのは、まだ私が処女のときでした。
私は罪を犯しましたが、これについて私に責任はありませんでした。
私は逃げ、荒野をさ迷っているときでした。この世の全てが憎く、泣きながら死にたいと思っていたときのことです。
アーサーが自分の意思でやってきたのか、それともマーリンが連れてきたのかは知りませんけど、そのときのアーサーは楽しそうには見えなかったわ。
とにかくアーサーは私の側に腰かけると、甘い言葉で私を楽しませました。
そして涙を拭いてくれると、私をまるで子供みたいに扱ったのですわ。
何度もアーサーがやってくるたびに、私の中でアーサーと言う存在が大きくなって行ったわ。
アーサーが悲しそうなときは一緒に悲しんだ。
喧嘩したときは、アーサーを嫌いになったけど、またアーサーを愛するようになった。
最近になると一緒の時間が少なくなってきたけれど、アーサーに出会ったころの日々は私にとって黄金のようなものですわ。
だからこそ、私はアーサーが王に相応しいと思うのです。

「さらに、また別の真相について御説明しましょう。
マーリンの師匠と言われる、ブレイズは最近なくなりましたが、彼はなくなる前に私に嘆願をしていました。
そのとき、ブレイズは、妖精の取りかえっ子のように縮んで横たわっていたのです。
そして、私が部屋に入ると、ブレイズは私とマーリンに対して事情を説明したのです。ちなみに、そのときマーリンは存命だったウーゼル王に仕えていていましたわ。
あの、ウーゼル王が後継者もなく、嘆きとともに亡くなった晩。それは、2人の王であった者が息を引き取とろうとしている夜でもあったのですけれども。
城門の隙間から、暗黒の夜がやってきていたのでございます。
その夜というのは、天と地上の境界がなくなった夜でした。
空の高く、そして暗い所から船がやってくるのを、私は見たのです。船の形は龍の翼が付けられており、船尾は光り輝くとともに、甲板にいた人も光を発しておりました。結局、その船はすぐにどこかに行ってしまい、見えなくなりましたけども。
ですが、船から2人が入り江に降りてきました。ちょうどそのとき、海はこれまでにないほどに荒れていました。
9人目までが降りてくるまで、海は大荒れで炎のようでした。
波の下、炎が生じ、裸の赤ん坊がマーリンの足にしがみつきました。するとマーリンはお辞儀をしてこう言いました。
“この子がウーゼルの後継者、この子こそ王だ!”
マーリンがこう言うと、周囲にいた反逆者たちはさわぎはじめ、異議を唱えた。
そのさわぎが収まったころ、さらに“この子こそがそうなのだ”とマーリンは続けました。“この子が支配者になる。そう語られるまで、平和に分割されることはなかった”。
予言者はこのように語り、海峡へ向っていきました。あろうことか、死ななければ通れないような場所を通り、向こう岸に行ってしまったのです。
この後、マーリンとあった時、私はあの話が真実か聞いて見ました。
すなわち、輝く龍と裸の赤ん坊が海に下りてきたと言うのは本当か、と。
でも、マーリンは普段からは考えられないほど呵々大笑すると、古い3行詩を歌ってくれました。

「雨、雨、太陽、空に虹!
若者は徐々に知恵を付け、
年寄りは死ぬ前にボケちまう。

雨、雨、太陽、草原に虹!
ワシにとって真実は、君にも真実、
真実とは、裸か着衣かどっちかだ。

雨、太陽、雨、そして花開く!
太陽、雨、雨。そいつは、深みからやってきて、より深みへ向う。
そいつがどこだか知らないか?」

「こんなふうに、ワケの判らないことを言うものだから、私は怒ってしまいましたわ。
それはともかく、陛下がアーサーとグィネヴィアを結婚させる件について心配はいりませんわ。
きっと、後世では詩人が題材にするようないい結婚となりましょう。
アーサー王の伝説が、繰り返して語られるたびに人々の心を慰めるようなことになると思いますわ。
それに、マーリンは普段、冗談なんかいう人じゃないのだけど、こんなことを言ってました。
マーリンによれば、アーサーは不死身だそうよ。仮に死んだとしても、再び復活するのだとか。
そして、民がアーサーのことを王だと認める限り、アーサーはすぐにでも異教徒達を打ち負かしてしまうでしょう。」

ブリーサントの話を聞いて安心したレオデグランだが、再び考え込んだ。
(この申し出を了承すべきだろうか?)
こうして考え込むうちに、ぼんやりとしていたレオデグランはこっくり、こっくりと居眠りを始めた。


2009/6/31


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