4章 ブリーサントの説明(上)

 

 

レオデグランは、これを聞いてさらに逡巡しはじめた。

アーサー王は不義の子なのか、それともゴーロースの子なのか?

それともゴーロスが死んだ後、ウーゼルの子として生まれたのだろうか?

いや、そもそもこれらの情報の中に真実があるのだろうか?

3人から話を聞いた後、今度は息子のガウェインとモードレッドを連れ、ロット王の妻でありオークニー王妃・ブリーセントがカメリアドを訪れた。

 

そこで、レオデグランはできる限りのもてなしをし、ブリーセントたちを食事の席に着かせた。

 

「王権というのは危ういもので、夏の日の流氷のようなものです。

貴女はアーサー王の宮廷から来たのでしたね。

勝利者でる彼について教えてほしいのですけども、よろしいか?

貴女の意見で結構ですから。

かなりの人間はアーサー王を憎み、それでいて強い男だと考えてようだ。

彼の騎士達はごく少数しかいないのだから、どんなに騎士が勇敢であったとしても、敵を打ち破るには充分だとは思えないのですが?」

 

「はい陛下」とブリーサントは答えた。

「では、御説明しましょう。

確かに寡兵ですけども、どの騎士達もみな勇敢な者ばかりです。

私は、野蛮な声をあげるウーゼル王の貴族たち死んだ後、アーサーが戴冠するところを近くで見ておりました。

アーサーの部下達は、“王になってください、我らは親愛なる貴方の意思に従いましょう!”と言っておりました。

するとアーサーは低い声で、権威を込めて短く部下達に誓いを立てさせたのです。

跪いて騎士に叙任された部下達が立ち上がったとき、ある者は今にも死にそうなほど青ざめており、またあるものは顔を赤らめ、またあるものは強い光で目がくらんだようにまぶしそうな様子でした。

 

「ですが、アーサーが巨大で神聖な円卓乾杯をし、心地よく話し始めたときの様子はとても私には表現できるものではありませぬ。

皆の目から忠誠の意思が光となって飛び交うようでしたわ。

その時の王様子は、神聖なものでした。

開き窓からアーサー王に炎の色の光があたっていたのだけれど、その3本の光がまるで十字架に掛かっているように見えたのです。

これを見て、アーサー王の王座の近くで静かに立っていた3人の王妃の1人は気絶してしまいましの。

アーサーの友人達も、背が高く、輝き、とてもハンサムなアーサー王を見て、アーサーの助けになろうと決意したのです。

 

「それに、膨大な知識を持った魔法使い・マーリンも来ていましたわ。

100の困難が来たとしても、陛下に忠誠を誓うマーリンの力で乗り切ることでしょう。

 

「湖の乙女も、アーサー王の側におりましたわ。

彼女は不思議な魔法を使うという点ではマーリン以上でしょう。

金襴の入った白い、神秘的な服を着ていましたね。

湖の乙女は、アーサーに大きな十字架の形の柄のある剣を渡してました。

この剣で、アーサーは異教徒達を追い払ったのです。

でも、乙女の周りにはいい香のする渦巻き状の霧で覆われていて、大聖堂の暗がりの中ではどんな顔をしているのかまでは分かりませんでしたけれど。

それでも、賛美歌を歌う湖の乙女の声が、彼女を覆う水の中から聞こえてきましたわ。

歌声はとても穏やかで、仮に嵐がやってきたとしても、水面に波を立てるだけでしょう。

湖の乙女の水からは、王に向って力が注がれていたのです。

 

「アーサーの戴冠の時、エクスカリバーも王座の前に置かれていましたわ。

この剣は湖の水面から出てきたモノで、かつてアーサーはボートを漕いで取りに行ったとのことです。

柄は宝石で飾られた豪華な作りで、見るものの目と心を驚かせる剣でしたわ。

刃の部分は輝きを発し、その明るさは見る者の目を晦ませるほど。

さらに、刃の片面には古語で“剣を取れ”と彫刻されているのです。

そして、裏側には“剣を投げ捨てろ”と彫られていました。

悲しそうに、剣に彫られていた文字のことを話すアーサーに対し、マーリンはこう助言していました。

“剣を取り、戦うのです! 剣を投げ捨てるべき日は、まだまだ遠い日のことですから”、と。

そうして、アーサーは素晴らしい剣を手にすると、この剣で獣や外敵を打ち負かすことを決意したのですわ」

 

レオデグラン王はブリーセントの話を聞いて喜んだものの、アーサー王の出自に対しての疑問に対してはしっかりと確かめておくために質問をした。

 

「ツバメとアマツバメは近い種族ですよね。

貴女とあの高貴な方も近い親類で、貴女はその方のお姉さんだとか?」

 

ブリーセントは言った。

「私はゴーロースとイグレーヌの娘ですわ」

「つまり、アーサー王のお姉さんでございますな?」

 

と王は返した。ブリーセントは、

 

「ここからは秘密の話になりますわね。」

 

ため息をつくと、ブリーセントは2人の息子を部屋か出て行くように命令した。

ガウェインは、飛び跳ねるようにして歌いながら部屋を出た。まるで、そのたなびく後ろ髪は飛び跳ねる子馬のようであった。

一方でモードレッドはドアに耳をくっつけて、ブリーセントの話を半分ほど聞いていたのである。

このことが後に王国に衝撃を与え、彼自身を運命づけることになるのだ。

2009/6/26

 

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