3章 ベディヴィアの返答

 

 

アーサーは戦場からウルフィウスとブラシティアス、それからアーサー自身が任命したべディヴィアをレオデグラン王の下に派遣した。

「貴方に対し充分報いたならば、私にお嬢さんのグィネヴィアを妻として頂きたい」

と告げさせたのだ。

 

この伝令を聞いたレオデグラン王は迷いを生じた。

(いかにアーサー王の助けを必要としていたとしても、私自身も王なのだ。

どうしてグィネヴィアを王か、あるいは王子以外の人間に嫁がせる事ができようか?)

 

レオデグランは白髪の侍従を呼び寄せた。この侍従は、レオデグランが誰より信頼する家臣であり、相談を持ち掛けることがあったのだ。

 

「お前はアーサー王の出自を知っておるか?」

 

白髪の侍従は、

「陛下、アーサーの出自については2人の老人しか知らないでしょう。

この老人は、どちらも私の倍は年寄りらしいのですが、まず1人目はマーリンです。

マーリンは賢者でして、魔法の力によってウーゼル王に仕えておりました。

もう1人はマーリンの師匠で、ブレイズと呼ばれている男でございます。

ブレイズはマーリンに魔法を教えたのですが、いまではマーリンは独立てしまい、師匠から離れて住んでいます。

が、ブレイズは魔法の力で全ての事柄と、マーリンの行いを書き記した書物を作成しました。

この書物を見れば、アーサー王の出生の秘密を知ることができるでしょう。」

 

レオデグラン王は、

「おお友よ、今日の私の喜びの半分はアーサー王から、もう半分はお前から貰ったぞ。

それまで獣や外敵が私を悩ませていたのだから。

とりあえず、もう一度私の前にウルフィウス、ブラシティアス、ベディヴィアを呼んで来てくれ給え。」

と答えた。

 

ウルフィウス達がレオデグラン王の御前にやってくると、レオデグランは言った。

「私はカッコウ(自分の卵を他の鳥に育てさせる習性がある。アーサーの出生についてなんか言いたいようだ)が自分より小さい鳥を追い払っているのを見たことがある。こういうのには理由があるのだ。

君達の主は戦争の情熱に沸き立っているが、ある者はアーサーをゴーロズの息子だとか、アントンの息子だと言っているではないか?

(ゴーロスはイグレーヌの元夫で、モーガン・ル・フェイの父親になっている人。ゴーロイスとかの発音の方がたぶん、一般的。アントンは通常の話だとエクター卿に相当する人物)

君達の知っていることを教えてくれないか、アーサー王は本当にウーゼル王の息子なのか?」

 

ウルフィウスとブラシティアスは、

「その通りです!」

と、答えた。

 

アーサー王によって叙任された最初の騎士であるベディヴィアは、以下のように返答した。このベディヴィアこそはもっとも豪胆な心と行動をする男であり、ベディヴィアの言葉は王に対し中傷するような厳しいものであった。

 

「この件については、いくつも噂を聞いたことがございます。

心の底から陛下を憎むものは、陛下のことを私生児だとか、陛下のやり方は甘いだとか、その残忍さゆえに陛下を人より劣る存在だとか言っている。

それから、陛下のことを人間を超えた存在であると信じていたり、天からの使いだと信じている者もいます。

それはともかくとして、私の信じる真相はこのようなものです。是非、心してお聞きくださいますように…。

 

御存知のように、ウーゼル王の御世、公爵であり戦士でもあったゴーロス公はコーンウォールの海岸近く、ティンタジェル城を統治していました。

そして、ゴーロス公は麗しのイグレーヌさまを妻としておりました。

ゴーロス公とイグレーヌさまの間には娘が何人かおり、…たとえばそのうちの1人はロット王の妻にしてオークニーの王妃・ブリーサントさまでございます。このブリーサントさまはアーサー王と別々に育ちましたが、いまでは親しい間柄となっております。

だが、イグレーヌさまはその当時、まだ息子を生んでおられませんでした。

そんなイグレーヌさまの瞳に、ウーゼル王は愛を見出しましたが、イグレーヌさまはゴーロス公の貞淑な妻でありました。

そのため、不名誉なウーゼルの恋を嫌ったゴーロス公とウーゼル王は、戦いをすることになりました。

その結果、ゴーロス公は敗北し、殺されました。

 

怒り、そして熱狂するウーゼル王はイグレーヌさまのいるティンタジェル城を包囲しました。

イグレーヌさまの家臣は城壁を取り囲む軍隊を見ると、イグレーヌさまを残して逃げ出しました。

しかるのち、ウーゼル王は入場したので、城内に人の気配は全くありませんでした。

ウーゼル王の軍隊に包囲され、悲しいほど早く、涙ながらにイグレーヌさまは王に嫁ぐ事になりました。

ですが、悲しいことですが、まもなくウーゼル王は王国が破滅しないように世継ぎを決めてから崩御なさいました。

そのウーゼル王の死なれた夜、それはちょうど新年を向える夜でしたが、悲しみにくれたのが原因でしょうか、イグレーヌさまはアーサー王を出産なされたのです。

 

生まれてすぐ、アーサー王は裏門にいらマーリンの元に届けられました。

それから、マーリンはふさわしい時期が来るまで、離れた場所でアーサー王を養育することにしたのです。

なぜなら激しく暴れ回る貴族たちは野生の獣のように、子供をゆっくり引き裂いきかねない残忍な者ばかりだったからです。

というのも、貴族たちはウーゼル王がゴーロスのため、自分勝手に法を捻じ曲げたことを知っており、ウーゼルを嫌っていたからです。

だからマーリンは子供を連れて出し、古参の騎士であり、ウーゼル王の昔からの友人であるアントン卿に子供の養育を負かせたのです。

それから、アントンの妻は幼き王子を自分の子供として育てたのです。

このことは、誰も知らなかったのです。

 

やがて、貴族たちは獣のようにお互いで殺しあい、王国は荒廃しました。

ですが、今年になってようやく時期がやって来たので、マーリンはアーサー王を広間に連れてくると、こう宣言しました。

“この方こそ、ウーゼルの後継者、若き王だ”

しかし、100を超える声が上がりました。

“そいつを叩きだせ!俺達に王はいらないからな!

ゴーロスの子であろうとアントンの子であろうと、そいつは王ではない。

単なる卑しい身分のガキにすぎない”

しかし、マーリンの策略により、反対する者もいたのですが、アーサー王は戴冠することとなりました。

そのため、大貴族たちは徒党を組んで戦争を仕掛けて来た、というわけでございます。」

 

2009/6/14

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