14章 聖槍、嘆きの一撃
ヴィヴィアンは、軽々と嘘をついて見せた。だが、ベイリンはキャメロットの木陰でのことを思い出して恐怖に震えた。
そして、憂鬱そうにため息をついた。
(この女は、本当のことを言っているに違いない…)
ヴィヴィアンはにこやかに微笑むと、
「ねえ、騎士様。この孤独な森の中でさえ、まだソレを崇拝したりするのかしら。
森には舌あり、壁には耳があり。秘密は漏れてしまうもの。
貴方が私と行くなら、私達は喋ることになります。
賢い陛下は騙されたりしないでしょうけども。
今、私は、貴方にランスロットと王妃の対し、有利な立場を与えましたのに。」
cap
ヴィヴィアンが語り終えると、ベイリンには邪悪な心が芽生えた。
歯軋りし、叫び声とともに木の枝まで跳び上がると、地面に盾を投げ捨てた。
王妃の紋章はベイリンの鎧で覆われた足元を転がり、さらに踏みつけられて破損した。
それでもさらに森の草地に向かって盾を投げつけると、語り手を罵り始めた。
いかなる獣・鳥とも違う、この世のものとは思えないような叫び声は森を恐怖に陥れた。
ちょうと、その場には未だ冒険を成し遂げられずにいたベイランがいたのである。
ベイランはこの叫び声を聞くと、これこそは自分の捜し求めていた森の悪魔に違いない、と考えた。
そしてベイリンの盾を、ひいては王妃と騎士団を侮辱する行いをする男を見て、こう考えた。
「あぁ、奴め。我が騎士団の誰かを殺しやがったな! 僕の冒険はここにあるようだ。
悪魔だろうが、人間だろうが、貴様の頭をカチ割ってやるから覚悟しろ!」
ベイリンは言葉もなく、従者から素早く盾を奪い取ると馬に跳び乗った。
2人の騎士の激突でペラム王の聖なる槍、すなわち罪なき方(キリストのこと)の血で染められたという槍は、罪ある人間(ベイランのこと)の血で染められた。
その槍の鋭さはベイランの使っていた真新しい盾、そして鎖帷子に穴を開け肉まで達した。
一方、ベイリンの馬は激突の衝撃で落命し、落馬したベイリンを下敷きにしたため、ベイリンは意識が朦朧とした。