10章 王妃のために…
そこでベイリンは薄暗い晩餐会の会場で、ペラム王と、騎士の挨拶を受けた。
沈黙の中、ガーロンが先刻なされたのと同じ質問をした。
「なぜ、王家の紋章を身に付けているのだね?」
「俺が、そしてランスロットを含めた我らが崇拝し、最も美しく、最高で、純潔の王妃様が下さったからです」
この声は、アーサー王の騎士はこの宮廷では嫌われていたので(1章あたり参照)、いい反応を起さなかった。
まるで、白鳥の母親が見知らぬ獣が巣に接近する足音を聞いた時のように、ガーロンはシューと威嚇するような声を出した。
それから、ガーロンは意地悪く微笑むと、
「俺も見たことがあるから、王妃が美しいと言うのは同意してやろう。だが、最高の女性で、しかも純潔だと?
ちゃんちゃら可笑しいぜ!
貴様、アーサー王の宮廷から来たくせに、そんな馬鹿なことを行ってやがるのか!
目が付いてるのか、それとも夢でも見ているせいで美しい婦人の不義の行いが見えてないのか。
ふん、貴様らアーサー王の騎士と言うのはガキみたいなもんだなぁ」
ベイリンの右側にはアリマタヤのヨセフの伝説に起源を持つゴブレットがあり、これは巨大な青銅でできていた。これは、海の向こう側から天使が船で運んできたものである。そしてアリマタヤのヨセフはグラストンベリーに粗末な教会を建設したのである。
ベイリンはこのゴブレットをつかみ、投げつけようとした、だが、盾に付けた紋章を思い出し、自制した。
(紳士らしくしよう、紳士らしく…)
ベイリンはゴブレットから手を離し、ガーロンを糾弾した。
「俺の瞳は、今日、背後から地面に沿って走る槍のシャドウ(影、気配)を見ました。
また、昔はランスロット卿が臣下として、心から、力強く、名誉をもって、優美に振舞う様子を見たものです。
ですが、貴方の宮廷はどうです?
貴方の客、すなわちアーサー王の臣下たる俺に対してとる態度のなんと無礼なことか!」