第8章 偽ガウェイン事件の真相が発覚すること

 

旅を進めるガウェインとエスピノールは、「笑わずのトリスタン卿」の城にたどり着き、そこで歓迎を受けた。
この「笑わずのトリスタン」は、たぶん、円卓の騎士のトリスタン卿とは別人…なんじゃないかな、と思う。
いや、「トリスタン」ってよくある名前じゃないですか。最近だとスペインのサッカー選手に「ディエゴ・トリスタン」とかフランスの詩人に「トリスタン・ツァラ」とかいますしね。
彼らの親御さんが何を思って息子に「悲しい」(トリスタン)などという名前をつけたのかはよくわからないけど。

ここで正体を隠しながらガウェインが世間話などをしてみたところ、このトリスタン卿は、
「はぁ、ガウェイン卿の殺害事件ですか? よく存じておりますとも」

「…ッ! 詳しく、お話を聞かせても立ってもよろしいですかな?」
ガウェインは、冷静に振る舞いつつ尋ねた。

「ええ、ファエ・オルグイユーとゴムレ・サン・ムジュールという2人の男が、御婦人への恋ゆえにガウェイ卿を殺した、とのことです」

ちなみに、「オルグイユー」はフランス語で「傲慢」だから「ファエ・オルグイユー」は和訳すれば「傲慢なファエ」、同様に「ゴレム・サン・ムジュール」は「節操のないゴムレ」になるそうです。
名前を聞いただけで、明らかな悪役である。

「彼らはある2人の姉妹に求愛しておりましたが、まったく見込みが無い状況でした。
というのも、姉のほうがガウェイン卿に、妹の方は『赤き騎士』ことパーシヴァル卿に恋をしていましたからね。
で、ファエとゴムレはガウェイン卿を憎むようになったと言うことです。
2人は、ガウェイン卿の死体を持ってくることができたなら、姉妹たちが自分たちと結婚するように条件をつけたとのこと。
無理だと思っていましたが、意外にも2人はガウェイン卿とおぼしき死体を持ってきましてね。
私などはどうにも信用ができないのですが、明日が彼らの結婚式ですよ」

と、トリスタン卿は説明をした。
――ポイントとして、トリスタン卿自身は、2人の悪者がガウェインを殺したとは信じてはいない。
ただ…、現実に結婚式まで行われるのだから、信じるものもいたようだ。――

――なんでそんなデマが信じられたのだろう?
写真やらはないから、直接あった人物以外が死体をガウェインだと識別はできないだろう。もちろん、指紋や血液型などの科学判定もダメだ。
考えられるとしたら、エスカノール編以後、ガウェインが名前を名乗らなかったことが原因ではないかと思う。

つまり、「ガウェイン卿死亡」のデマが流れたのとほぼ同時期、ガウェイ卿は名前を明らかにしないという誓いを立てている。もしかしたら、世間的には「ガウェイン死亡」のニュースが流れてから、ガウェインの消息が不明になっているのかもしれない。一応、エスカノール編で出てきた青年やら墓場の乙女あたりはガウェインが生きていることを知っている可能性はあるんだけれど。
というか、どうにも管理人としてはエスカノール編とそれ以後の物語は、別個に発生した物語をつなぎあわせたんじゃないかな、と思う。タイトルが「危険な墓場」なのに、どういうわけか墓場の冒険自体はかなり早い時期に終わっているし、複数の異なる伝承を無理やりくっつける、というのはそうそう珍しいことでないから。ちなみに、『ニーベルンゲンの歌』なんぞも前編と後編でキャラの性格が変わったり、張りっぱなしの伏線が未回収だけど、あれは異なる2つの伝承をくっつけたために起きているのだとか。

余談が長くなったけれど、本筋に話を戻す。
「笑わずのトリスタン卿」から話を聞いたガウェインは、まさにファエとゴムレこそが、自分の探し求めていた騎士であると確信した。
そこで、「笑わずのトリスタン卿」に対し、道案内を依頼する。
ファエは城に、ゴレムは丘に天幕を張っているというので、二手に分かれてガウェインはファエを、エスピノール卿はゴムレの方を倒すことにした。

さて、エスピノールと別れたガウェインであるが、槍の一突きでファエを落馬させた。
たちまちに、ファエは降参をする。

「私の負けでございます。アーサー王の囚人となりましょう…。
ところで、あなた様のお名前はなんと言うのですか?」

「私か? …私は、ガウェイン。円卓の騎士だ!」

「ええッ…」

格好良くガウェインが名乗りを上げると、ファエは顔面蒼白である。
こうやってガウェインが名前を明らかにするのは、実にエスカノール卿と戦って以来のこと。
まさかガウェイン卿がじきじきにファエの退治にやってくるとは思いもしなかったのだろう。

「虚偽の申告で御婦人への求婚をしたことは未遂だとしても、お前とゴムレは、また私の代わりに罪もなき騎士を誤殺した。
さらに、通りがかった男の両目を抉った。どう償いをするつもりだ?」

「はい、その騎士を生き返らせ、目を潰した男には視力を回復させるつもりです。
それで、なんとか許してください」

なんというご都合主義!
あっさりと、ファエはとんでもないことを言い出した。
そんな魔法を使えるのなら、傲慢にもなろうと言うもの。
ていうか、魔法を使えるのなら槍の一突きで負けてないで、戦闘中に何か魔法を使えよ、と管理人は思う。

「…そうか。ならばよし」

さて、ガウェインはファエをおともに連れ、エスピノールと合流するために「笑わずのトリスタン」の城へと向うと、その途中で黒騎士と出会った。
その黒騎士が連れている馬には、鞍上に2人の男がぐったりと乗っけられている。よく見れば、そのぐったりしている男はエスピノールとゴムレではないか。
つまり、この黒騎士はエスピノールとゴムレを打ち負かして捕虜にした、ということである。

ガウェインとファエは狼狽するも、捕虜になっているのはお互いの友人である。
友人を取り戻すには、戦わなければならない、だが、1人に2人でかかるのは、卑怯である。

そこで、まずはファエが黒騎士に挑んだ。
だが、ファエはあっさりと黒騎士に敗れ、黒騎士の有する捕虜は3名になった。

こうなれば、我らの主人公、ガウェインの出番である。
黒騎士とガウェインは、あたりが薄暗くなるまで戦い続けた。

「騎士どの。もうじき日が暮れる。
続きは明日の朝にしませんかね?」
と、黒騎士が提案をした。

「いや、今日のうちに決着をつけてしまおう…。
そいえば、騎士どの。私たちは互いの名前すら知りませんね。
私はガウェイン。貴方は?」

「えっ、ガウェイン卿? 生きてらしたのですか!
それなら、この勝負は私の負けでかまいません。
私は円卓の騎士の『ル・レ・アーディ』。貴方が死んだと聞かされて、真偽を確かめに来たのですよ」

と、黒騎士も正体を明かす。そうと分かれば、争う必要もない。
黒騎士を仲間に入れ、ガウェインたちは『笑わずのトリスタン』の城に向う。
もう日が暮れる時間だったので、一行はトリスタンの娘による治療を受け、傷を癒した。
そして翌朝。首やら四肢を切断されていた騎士は、ファエの魔法によって生き返った。
一応、話には聞いていたが、ガウェインはこの奇跡に驚愕した。

そして、帰り道は描写はほとんど消化試合みたいなものだ。
ガウェイン、エスピノール、ファエ、ゴムレたちは、ハイタカの騎士であるコドロヴァンの城に泊めてもらった。
で、さらにコドロヴァンも仲間に加えてガウェインはアーサー王の宮廷を目指す。

そして、カーレオンの手前では、やはりファエの魔法に寄って盲目となった若者が視力を回復させ、嘆き悲しんでいた乙女たちは歓喜するのであった。

こうして、1人きりで出発したガウェインは、多くの仲間を連れてアーサー王の宮廷に帰還したのである。

 

―――end―――
 

2010/05/23

back
top

inserted by FC2 system