第4章 太陽の騎士エスカノール卿の計画が明らかになること

 

悪魔の戦いの翌朝。昨夜の青年が、食べ物や飲み物を持って墓地にやってきた。
再会した青年はガウェインの無事を大いに喜んだ。
実際、夜の戦ったいるうちに来いよ、という感じである。が、城の中の人はガウェインと悪魔のが戦う音を聞いて恐怖に震えていたから仕方がないのである。

「ガウェインさん、昨晩に頼まれた件ですがうまくいきました。
兄に頼んで、誘拐の騎士と乙女の部屋を別々にさせてもらいましたから」
「おおっ、それはありがたい」

昨晩の失点を取り戻そうとしてか、青年はガウェインに頼まれた件を成功させたことを報告する。
これに満足したガウェインは、墓場の乙女、青年を伴って城に入った。

・・・が、ガウェインが城に入った時点で、誘拐の騎士は乙女と合流し、すでに城を出発していた。

(なんとも肝心なところで役に立たない青年だな。
言われたことだけしかできないなんて、社会に出てやっていけないぞ)
と、ガウェインが思ったかどうかは判らない。
とりあえず、墓場の乙女と青年は、ガウェインのお供をしたいと申し出たので、彼らを加えて3人で旅を続けることになった。

そんなガウェイン一行が誘拐の騎士を探して進んでいくと、またしても夜になった。
が、今回はうまくいったもので、誘拐の騎士たちが宿泊した城に、ガウェインたちもとめてもらうことができたのである。

「これはいけません!」と、墓地の乙女が言った。
「乙女を誘拐した騎士というのは、あの大柄な騎士なのですか・・・?
ガウェイン卿、あの騎士とは戦ってはなりません」

「それはどうしてだね?」と、ガウェインがたずねた。

「あの騎士はエスカノール卿という名です」と、乙女は答えた。
「彼は恐るべきことに、太陽が昇るとともにその強さを増し、正午で絶頂を迎えるという特殊能力を持っています。
どうしても戦うと言うのなら、お昼過ぎか夜にしてください。
正午以降は徐々に弱くなるはずですから」

――なんというか・・・、パクリですな!
この手のモデルと言うのは、ケルト人の太陽信仰と結びついているとも言われるそうだけど、どうにもパクリっぽい。
そういえば、『アーサー王の死』でガレス卿の冒険に登場する「赤い国の赤の騎士」ことアイアンサイド卿なんかも同種の能力を持っている。こういうキャラは敵役として都合がいいのだろうか。

さて、一方で青年の方は城主と話し合い、エスカノールと乙女の泊まる部屋を別々にさせてきた。
どうしてこういうことができたかというと、青年はここの城主はこれまた親戚だったからである。
なんとも顔の広いことだ。
が、2晩続けて乙女と別の部屋をあてがわれたエスカノールは当然に、気分を害していたのである。

・・・そして、夜が明けて次の日の早朝のことである。
乙女の忠告をまるっきり無視して、ガウェインは街道の真ん中で、エスカノールと対峙していた。

「よくぞ、追いかけてきたな・・・」と、エスカノール卿は言った。
「今こそ明らかにしてやろう。全てはおれの計画通りだ」

「なん・・・、だと・・・?」

「おれとこの乙女は本当に恋人同士なのだ。
つまり、あの誘拐は狂言誘拐・・・。ガウェイン卿、お前をおびき寄せるための、な」

――なんというか、この計画は本当にうまくいくのだろうか、と管理人は思う。
こんなん、宮廷でタコ殴りにされてたら終わりなんだし、ガウェインと戦いたいなら、普通に試合を申し込めばいいのではないかと思う。それに、他の騎士が追跡して来たら、とか最悪ガウェインが追いつけない、という可能性はなかったものか。
でも、よく読み返してみたら、1章で乙女が自分の庇護の騎士にガウェインを希望するとか、最低限の伏線は張ってある。

と、道の真ん中でしゃべっていると、青年がガウェインを追いかけて城からやってきた。
青年はガウェインにだけ届くように、
「ダメじゃないですか、ガウェイン卿!
午前中は戦っちゃダメなんですってば!」
「・・・そう、だったかな」
なんとも頭の悪いことであるが、基本、騎士物語ではこういう特殊能力持ちは真っ向から戦わねばならぬ。ガレス卿だって、アイアンサイド卿と真っ向から戦ったのだから、ここでガウェインが「あ、夜まで待つわ」とか言うとそれはそれで萎えるのである。

ガウェインに対して進言したあと、青年は今度はエスカノールに向けても、
「とにかく、道の真ん中とか、こんな狭い場所で戦うのは良くありませんよ。
広くて、障害物のない場所がいいでしょう。
いい場所を知っていますから、案内しますよ」

この提案に2人の騎士が同意すると、青年はなるべく時間を稼ぎながら平野を目指した。
これに従う2人の乙女も、自分の騎士の勝利を願う。ことにエスカノールの恋人は、自分が計画に協力したことに後悔をし始めていた。

さて、平野にたどり着いた2人は、槍を構えて馬を突進させる。
激しい衝撃で槍は砕ける。
ガウェインは即座に剣を抜こうとするが、エスカノールはガウェインに付き添う青年に対に槍を準備させ、もっと槍で戦おうと提案をする。
結局この提案は受け入れられ、さらに6本の槍が準備された。
このとき、ガウェインは微妙に紳士的な行動をしている。
青年はガウェインの味方なので、準備した槍をまずガウェインに選ばせようとした。が、ガウェインはこれを拒否して、まずエスカノールに槍を選ばせたのである。
これによって、エスカノールは先に6本の中から選りすぐって3本を選び、残りの3本をガウェインが使うことになった。
・・・といっても、どうせ槍は全部折れたからあまり意味はなかったのであるが。

槍が残らず折れてしまうと、今度こそ剣での戦いである。
2人は馬上で剣を振るう。序盤はガウェインが優勢であった。
が、ガウェインはエスカノールの盾を切り裂くことに成功したものの、その代償に剣の方が折れてしまった。

(まずい!)

ガウェインは剣を失い、エスカノールは盾を失った。
どっちが優勢かは明らかである。

すばやくガウェインは逃げ出した。
いや、逃げではない。折れてしまったため、エスカノールが投げ捨てた槍を拾いに行ったのである。
そして、ガウェインはその槍で――、エスカノールの馬を殺した!

これはいけない。日本人は「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」、と言う。
だが、馬上槍試合で相手の馬を殺すのは反則である。非紳士的な行為である。
ていうか、日本の合戦でも馬を殺すのはしていいんだけ? 『花の慶次』でダメ、っていってた気がする。
ていうか、「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」って、何が起源なんだ、調べてもわからない。詩聖こと杜甫の「前出塞」に「人を射んとせばまず馬を射よ」ってのがあるけど・・・、謎である。

脱線をしたが、とかく、馬を殺すのは反則である。さっき、槍を先に選ばせたのが帳消しになるほどに騎士道に反する。
当然、エスカノールは激怒し、ガウェインを罵った。

(・・・で、でかいな)

馬を下りたエスカノールを目にしたガウェインは思った。馬を下りたエスカノールは、かなりの長身である。
自分の馬が殺されるのが嫌だったのか、それともいくばくかの良心があったのか、ガウェインは新しい剣を用意させると、自分も馬を下りて徒歩で戦う。

この徒歩での戦いはかなりのものとなった。一進一退、ガウェインが優勢になったかと思えば、エスカノールが取り戻し、またガウェインが優勢にあると言う按配。
中国風に言えば、「戦うこと百余合なるも、まだ勝負はつかない」というやつだ。
西洋風に言えば、互いの盾はぼろぼろになり、鎧は切り裂かれて互いの傷口から血を流しながら、なおも2人は戦った、というところか。

そんな果てしない戦いも、ついに終わりがやってきた。
エスカノールの剣が、ガウェインの盾に突き刺さり、抜けなくなったのだ。
死の恐怖に包まれたエスカノールは、それこそ必死で命乞いをする。

「ガウェイン卿、どうか慈悲を・・・。
騎士は負けを認めた者を殺さないはずだろう?」
「・・・そうだな。だが断る」
と、ガウェインは降参を受け入れることなく、エスカノールの首を切り飛ばした。

ガウェインの勝利に、付き添いの青年と墓地の乙女は大喜びだ。
一方、エスカノールの恋人は悲しみに包まれる。

なんとも、騎士道に反する。『アーサー王の死』でも、ガウェインは降参した相手を殺すなど、ちょいと残虐なところがある。
嘆き悲しむ乙女に対しては、

「・・・、その。すまない。
君はアーサー王の宮廷に戻るのだ。きっと、もっといい恋人が見つかるから」

と言って慰めたのである。
最終的に、エスカノールの恋人もガウェインの提案を受け入れることになったのである。

――こうして、聖霊降臨祭からはじまった乙女の誘拐事件は終わった。
だが、まだ帰り道に偽ガウェイン事件が残っている。
その件については語るには、章を改めることにしよう。

 

2010/05/07


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